04.しのぶ者
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カスミサイド
いつかの、いつもの冒険者酒場で、我々、ギルド・海市蜃楼のメンバーはクエスト完了の打ち上げの盃を酌み交わしていた。
リーダーの希羽はあの時はその場に居なかった。元老院に行っていたか、ギルドメンバーのスカウトに行っていたか…。何にせよ、彼女が居ないからこそ、彼女を話題に出したのだったと思う。
「だいたい希羽はクジュラさんのどこが良いのかしら!?アタシという女が居ながら!!」
そう嘆いてダンっとグラスを机に叩きつけた彼女の名前はレナーテ。元海賊で、気性は荒めだがとても優しい女性だ。
希羽とは海都で知り合って、一目惚れしてそのまま同行しているらしい。
「しょうがねーだろ。だって見たか?希羽のあの目。うっとりして…もうクジュラさんしか見えてない」
レナーテの隣でだるそうな顔で巻貝の酒蒸しを突っついてるのが、アンドリュー。
一見すると女性の様にも見える端正な顔立ちと美しくウェーブした長髪からは想像もつかない膂力で棍棒を振り回す、我がギルドの特攻隊長である。
ちなみに希羽の幼馴染で、従者として旅に同行しているらしい。
「そりゃあうっとりするわよねぇ。ちょっと他には居ないわよ、あんないい男。私ももう少し若ければ狙ってたかも、なーんて。うふふふ」
私の隣で、この店で1番度数の高いお酒を飲んで少女の様に可愛らしい笑みを浮かべているのはプリムラ。彼女も希羽の従者で、希羽のお祖母様の代から家庭教師として仕えていたらしい。
家庭教師業は引退して田舎で農家をしていた所を、希羽と孫娘であるアネモネ、そしてアンドリューに連れ出されたそうだ。
その孫娘のアネモネは無口な子で、テーブルの端で黙ってジュースを飲みながらタロットを並べている。
ついでにタコワサ、梅水晶、シメサバなども並んでいて…それジュースでイケる?美味しいの?なんというか、渋い。彼女も希羽・アンドリューと幼馴染で、祖国ではいつも3人で行動していたそうだ。
「スミレは、どう思うの!?」
「ぎゃっ!!」
レナーテに話を振られて、思いっきりグラスを倒したのは私の妹のスミレ。なるべく存在感を消して生きていたい、が口癖なのだけれど、いかんせん女の子にしては背が高く目立つ容姿をしているので、なにかと言うと槍玉に挙げられがちな不憫な子である。
「ど、どうって。希羽の気持ちが大事かと…?」
「そうそう。希羽が好きだっていってるんだから、私は応援してあげたいなぁ」
スミレが倒したグラスを片付けながら私が言う。
レナーテも自分のハンカチでこぼれた飲み物を拭いてくれた。スミレも迷宮ではいっちばん素早くて、本当に頼れるんだけども。
「レナーテ、ハンカチ、ごめんね。洗ってくる」
「別に良いわよ。アンタ1人で行ける?ついて行くけど」
「ううん、大丈夫、行ってくるね」
スミレを見送ってから、
「…そりゃ~アタシだって希羽の気持ちは尊重したいけどさぁ!でもちょっと優しくされたからっていきなり好きになるなんて!しかも希羽だけ特別ってワケじゃないのよ。全員に優しくしてんのよあの男は」
「そんな、人をチャラ男みたいに」
「チャラさとは対極の位置に居るけどねぇ」
まあ、レナーテが荒れる気持ちもわかる。彼女にとっては突然現れた男が急に恋敵だもんね。
しかも優しくっていったってアイテムくれたりとかだし、ただの義理だよ。
「つっても、レナーテも希羽に一目惚れだろ?同じじゃねーか。恋に落ちるのに理屈なんていらねーんだよ」
「あらぁ、アンドリューのくせに良いこと言うわねぇ。そうよね、それに誰にでも優しい人だけど、全員にじゃなくて、優しくする人は選んでる様に見えるわ」
「俺のくせに、ってなんだよ」
「…わたし、昔、占ったことあるの」
アネモネが梅水晶をコリコリさせながら唐突に言い出した。全員が注目する。
「アネモネ?何を?」
「希羽に聞かれて、希羽の将来の恋人」
「ピンポイントじゃん!!」
その場の全員が息を呑んだのがわかる。彼女の占いはよく当たる。過去も未来も、もはや全てが見えているんじゃ無いかってくらい。…実際彼女が言うにはエーテルに刻まれた記憶を読んでるだけだから当たるのは当たり前だそうだが。
だから、彼女の言葉の続きを期待したのだが…。梅水晶をジュースで流し込んだ彼女の次の言葉は。
「いなかった」
「どういう意味??」
「少し先の未来も、ずっと先の未来も、…恋人がいなかった。その時は、希羽はずっと一生独り身なんだって2人で爆笑したけど」
「うわ、笑ってんの思い浮かぶわ」
そ、そう?希羽はともかく、アネモネが爆笑するのか…。見てみたい。
「なにそれぇ。じゃあ私も希羽も、恋は実らないの?」
「…今思えば。出来なかったわけじゃなかった。居ない、と出た」
「…ど、どういう意味???」
「死ぬのかも。出来たとしても、相手がすぐ」
静かな声なのに、やけに響いた気がする。
なにそれ。でも、彼女の占いはよく当たるのだ。それを知っているから、全員がすごく微妙な顔をしている。
「そ、それって今占ってもそうなの?何かの間違い、とか?」
私が言うと、アネモネはタロットをシャッフルして数枚並べるのを何度か繰り返した。
「…何度見ても、変わらない。ちなみに、海市蜃楼のみんなは全員長生き」
「ちょっとぉ!アタシの失恋確定じゃないのよぉ!」
「いや、そこじゃなくて」
「なになに、何の話…どわぁぃ!!」
「あーー!!もうアンタはぁ!!!」
いつかの、いつもの冒険者酒場で、我々、ギルド・海市蜃楼のメンバーはクエスト完了の打ち上げの盃を酌み交わしていた。
リーダーの希羽はあの時はその場に居なかった。元老院に行っていたか、ギルドメンバーのスカウトに行っていたか…。何にせよ、彼女が居ないからこそ、彼女を話題に出したのだったと思う。
「だいたい希羽はクジュラさんのどこが良いのかしら!?アタシという女が居ながら!!」
そう嘆いてダンっとグラスを机に叩きつけた彼女の名前はレナーテ。元海賊で、気性は荒めだがとても優しい女性だ。
希羽とは海都で知り合って、一目惚れしてそのまま同行しているらしい。
「しょうがねーだろ。だって見たか?希羽のあの目。うっとりして…もうクジュラさんしか見えてない」
レナーテの隣でだるそうな顔で巻貝の酒蒸しを突っついてるのが、アンドリュー。
一見すると女性の様にも見える端正な顔立ちと美しくウェーブした長髪からは想像もつかない膂力で棍棒を振り回す、我がギルドの特攻隊長である。
ちなみに希羽の幼馴染で、従者として旅に同行しているらしい。
「そりゃあうっとりするわよねぇ。ちょっと他には居ないわよ、あんないい男。私ももう少し若ければ狙ってたかも、なーんて。うふふふ」
私の隣で、この店で1番度数の高いお酒を飲んで少女の様に可愛らしい笑みを浮かべているのはプリムラ。彼女も希羽の従者で、希羽のお祖母様の代から家庭教師として仕えていたらしい。
家庭教師業は引退して田舎で農家をしていた所を、希羽と孫娘であるアネモネ、そしてアンドリューに連れ出されたそうだ。
その孫娘のアネモネは無口な子で、テーブルの端で黙ってジュースを飲みながらタロットを並べている。
ついでにタコワサ、梅水晶、シメサバなども並んでいて…それジュースでイケる?美味しいの?なんというか、渋い。彼女も希羽・アンドリューと幼馴染で、祖国ではいつも3人で行動していたそうだ。
「スミレは、どう思うの!?」
「ぎゃっ!!」
レナーテに話を振られて、思いっきりグラスを倒したのは私の妹のスミレ。なるべく存在感を消して生きていたい、が口癖なのだけれど、いかんせん女の子にしては背が高く目立つ容姿をしているので、なにかと言うと槍玉に挙げられがちな不憫な子である。
「ど、どうって。希羽の気持ちが大事かと…?」
「そうそう。希羽が好きだっていってるんだから、私は応援してあげたいなぁ」
スミレが倒したグラスを片付けながら私が言う。
レナーテも自分のハンカチでこぼれた飲み物を拭いてくれた。スミレも迷宮ではいっちばん素早くて、本当に頼れるんだけども。
「レナーテ、ハンカチ、ごめんね。洗ってくる」
「別に良いわよ。アンタ1人で行ける?ついて行くけど」
「ううん、大丈夫、行ってくるね」
スミレを見送ってから、
「…そりゃ~アタシだって希羽の気持ちは尊重したいけどさぁ!でもちょっと優しくされたからっていきなり好きになるなんて!しかも希羽だけ特別ってワケじゃないのよ。全員に優しくしてんのよあの男は」
「そんな、人をチャラ男みたいに」
「チャラさとは対極の位置に居るけどねぇ」
まあ、レナーテが荒れる気持ちもわかる。彼女にとっては突然現れた男が急に恋敵だもんね。
しかも優しくっていったってアイテムくれたりとかだし、ただの義理だよ。
「つっても、レナーテも希羽に一目惚れだろ?同じじゃねーか。恋に落ちるのに理屈なんていらねーんだよ」
「あらぁ、アンドリューのくせに良いこと言うわねぇ。そうよね、それに誰にでも優しい人だけど、全員にじゃなくて、優しくする人は選んでる様に見えるわ」
「俺のくせに、ってなんだよ」
「…わたし、昔、占ったことあるの」
アネモネが梅水晶をコリコリさせながら唐突に言い出した。全員が注目する。
「アネモネ?何を?」
「希羽に聞かれて、希羽の将来の恋人」
「ピンポイントじゃん!!」
その場の全員が息を呑んだのがわかる。彼女の占いはよく当たる。過去も未来も、もはや全てが見えているんじゃ無いかってくらい。…実際彼女が言うにはエーテルに刻まれた記憶を読んでるだけだから当たるのは当たり前だそうだが。
だから、彼女の言葉の続きを期待したのだが…。梅水晶をジュースで流し込んだ彼女の次の言葉は。
「いなかった」
「どういう意味??」
「少し先の未来も、ずっと先の未来も、…恋人がいなかった。その時は、希羽はずっと一生独り身なんだって2人で爆笑したけど」
「うわ、笑ってんの思い浮かぶわ」
そ、そう?希羽はともかく、アネモネが爆笑するのか…。見てみたい。
「なにそれぇ。じゃあ私も希羽も、恋は実らないの?」
「…今思えば。出来なかったわけじゃなかった。居ない、と出た」
「…ど、どういう意味???」
「死ぬのかも。出来たとしても、相手がすぐ」
静かな声なのに、やけに響いた気がする。
なにそれ。でも、彼女の占いはよく当たるのだ。それを知っているから、全員がすごく微妙な顔をしている。
「そ、それって今占ってもそうなの?何かの間違い、とか?」
私が言うと、アネモネはタロットをシャッフルして数枚並べるのを何度か繰り返した。
「…何度見ても、変わらない。ちなみに、海市蜃楼のみんなは全員長生き」
「ちょっとぉ!アタシの失恋確定じゃないのよぉ!」
「いや、そこじゃなくて」
「なになに、何の話…どわぁぃ!!」
「あーー!!もうアンタはぁ!!!」