03.余韻と微熱
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なんだか頬がくすぐったくて目を覚ました。風に吹かれたみたいな。
ぼんやりと窓辺を見ると、クジュラさんの姿が見えた。開いた窓の外を、なんだか悲しそうな目で眺めていた。
彼のサラサラとした髪がなびいている。金色の髪は、柔らかな夕陽を受けてキラキラと光っていて…綺麗。
ふわぁっとカーテンが揺れて、ベッドのサイドテーブルの上に置いてある花束に初めて気づいた。
花もラッピングも、暖色で纏められていてとても可愛らしい。
このまま彼をじっと見つめていたかったけど、起きたのに声を掛けないのも変だなと思い名前を呼んだ。
「クジュラさん」
「おはよう…、寒かったか?すぐに閉める」
「あ、大丈夫です。多分、熱下がってきましたので」
「そうか、それは良かった」
「あの、このお花は…?」
窓を閉めて、ついでにカーテンも閉めた彼が、花束を手に取って私に差し出した。
「見舞いにと思って買ってきた」
「え!?クジュラさんが!?」
「何をそんなに驚いている」
「…いえ、あなたなら買うなぁと、今思い直しました」
「なんだ、失礼な奴だな」
「す、すみません。ふふ、とっても可愛いです。嬉しい…」
お見舞い用のお花を選んでくれたのであろう。匂いはあまり強くないが、見た目が華やかで、気分も明るくなる。
「希羽に似合うと思ったんだ」
「私にですか?」
「ああ。正解だった」
と、なんだか無邪気に笑う彼を見て、また熱が上がった気がする。…そんな顔するんだ。夕陽のおかげでバレないだろうけど、花束で軽く顔を隠し、うわ言みたいなトーンでお礼を言うしか出来ない。
うう、この花、一生大切にできたらいいのに。
「うーん、押し花に…いや飾っておきたいなぁ…でも枯れちゃう…」
「…希羽、キスしてもいいか?」
「あ、え?あ」
ギッとベッドが軋む。
「返事は待ってくれないんですか?」
「もとから待っていない。確認じゃなくて、心構えをしておけという意味で言ってる」
「もう。あの、風邪がうつります、よ?」
「うつったら、またお前に看病してもらえるだろう」
「…風邪引かなくても何でもしてあげますよ?」
唇が少しの間だけ重なって、すぐ離れる。彼の気だるげな視線に、身体が疼く。
「なんでも……だったら…」
「…だ、だったら…?」
「…いや、…病人に色々させたくない。今は寝ていてもらうのが最も嬉しい」
色々とは何を指すのかを考えていると、花粉が鼻腔をくすぐったのか、くしゃみが出た。
「すみません…」
「花瓶はあるか?」
「無いです。ここの息子さんから借りてきますね」
「ああ、俺が行くから病人がうろつくな」
「ありがとう、ございます…」
「…何でもしてやりたいのはこちらもだからな。少し待っていてくれ」
さっさと花瓶を借りに行っちゃった。
恋人みたいなこと言ってた!!いや恋人になったのか。きゃーー!!嬉しくて恥ずかしくてベッドに倒れ込んで足をばたつかせる。
手に持ったままの花束を、記憶に残すためにしっかり観察しとこ…
そういえば、なんというか黄色と赤と…クジュラさんのイメージっぽいお花が多いなぁ…好きなのかなぁこういう色が…。ピンクやオレンジも入っていて、可愛らしいね…私に似合うって言ってくれてたなぁ…。
彼の好きな色が似合うって事なのかな…。
完全に好きってことだよねそれって。好きって言ってくれたけどさ。
あ、やばい。私、彼を幸せにするなんて大見栄切ったけど、今逆だ。幸せにされてる。
いかんいかん、この幸せに甘んじるわけにはいかない。私が彼を幸せにしたいのだ。
「戻ったぞ。…もう陽が落ちたのか。部屋が暗いな」
「あれ、ほんとですね」
物想いに耽っていた為に、部屋が暗くなっていたことに気が付かなかった。
クジュラさんは早速花束と花瓶を洗面台に持って行き、花を生けた。乳白色で丸いフォルムの花瓶に明るいビタミンカラーがとてもよく映えている。
「あっ、そうだ、包装紙とリボンはそちらの、テーブルの上に置いていて下さいますか?」
「わかった。…残しておくのか?」
「はい!だって、いつでも思い出したいですし」
「そうか…」
「あ、変ですか?」
「変じゃない。可愛いと思う」
「かわっ…クジュラさんて絶対モテますよね?」
「誰に好かれようが、希羽しか愛せない」
強すぎる!!私が幸せにしたいのに!
まあでも一緒に居られるだけで今は幸せだからいっか。
/END 24.05.17