02.姫と騎士と姫
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海市蜃楼のメンバーは全員が、希羽を愛している様子だった。
生半可では、敵だった俺が今更彼女の傍で生きることは許されないだろう。だから、ギルドに籍を置かせてもらい、彼女たちを護ることが覚悟の証明になると思った。
海都を二人で連れ立って歩くのはなかなか楽しかった。特に、希羽が俺との噂が立つ事を恥ずかしがっている姿が可愛らしく、思わず目を細めてしまう。
商会の店主には既に俺が希羽へ想いに寄せている事を見破られていたので、一緒に行かなくて正解だった。
会計の時に怪しい薬や物を勧められたがほっておけとだけ答えてさっさと立ち去った。店から出て来た俺を発見した時の、希羽の嬉しそうな顔が眩しかった。
迷宮は相変わらず容赦がなかった。
海市蜃楼のサポートがあっても、慣れない手と刀では思う様に動けず気が急いた。
消耗しすぎた。希羽の背後に蔓が迫っている事に気付いていながら、反応が遅れてしまった。
魔の手が引いた時には、パーティーは壊滅寸前だった。
「希羽、無事か!?」
彼女を慌てて抱き上げる。
「は、い…みんな、回復しなきゃ。モンクのとこに…」
ああ、それもそうか。希羽が蘇生術を使えるわけでは無いのに。気絶しているモンクの所へ連れて行く。蘇生薬ですぐ意識を取り戻した彼女に他のメンバーは任せて、希羽と座り込む。
やばかったですねと力無く笑う彼女の首筋に、先ほどの蔓の跡が痛々しく残っていた。
思わず手を添わしてしまうと、ビクッと肩を震わせ驚いた様な潤んだ瞳で俺を見つめた。その仕草が妙に色っぽくて顔ごと視線を逸らす。
「すまない」
平気です、それよりも、と俺の方を心配してくれる。
「頬、傷が」
俺の頬に手を当て自分の方へ、そっと向き直させると、治療術を使ってくれた。
「ああ、ありがとう」
礼を言うと、少しはにかむ、その瞳から目が離せなくなった。そのまま吸い込まれる様に唇を重ねようとしたところで、やってきたモンクに揶揄われて。希羽に思い切り拒絶されてしまった。
その夜。
不慣れな俺の為に義手の手入れをしてくれていた彼女の手が不意に止まった。
久々の探索で、体力魔力共に消費が激しかった為に疲れたのであろう。
帰る様に促すと明らかに残念そうに口を尖らせていて、しかし素直に従って部屋を出ていった。
「おやすみなさいませ」
「ああ…いや、待て」
名残惜しくて呼び止めたが…流石に首の痛々しい痣を見ると、このまま引き留めてしまうのは良くないか。
迷宮での事を思い出してまた首筋に少し触れてみる。もれた小さな声を聴いて、正直帰したく無いと思ったが、何とか踏みとどまった。
…勢い余って口付けてしまったが。彼女の大きく見開かれた瞳を覗いて心が満ちた。
おやすみとだけ言ってドアを閉める。
ずっと、何故希羽が深都に付いたのかを考えていた。
しかしきっと彼女は自分や海市蜃楼に出来ることをしたまでだ。
俺だって姫様の為に出来ることをしていただけだ。姫様だって、自分の夢の為に行動した。
散々邪魔をした俺を、希羽は全て赦してくれた。
だったら俺は、姫様と、彼女たちと、俺自身を赦さないといけない。
…自分を赦すのは容易ではなさそうだが、いつか希羽に絆されて、何もかも赦せる日が来るかもしれない。
きっと遠くないうちに。
/ END 24.05.23