02.姫と騎士と姫
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痛みで少し意識を取り戻す。先ほどまでのは、夢か走馬灯か。向こうで姫様が文字通り崩れていくのが見えた。
俺も、すぐに。懐刀を取り出し自らの腹を裂いた。
「嫌です、クジュラさん!!!」
ああ、希羽がこちらに飛んできた。邪魔をしないでくれ。俺は、いかなければ。
「絶対に嫌!!あなたは死んじゃダメなの!」
そんな顔で俺を見るな、と彼女に言う。彼女は泣きじゃくりながらパーティーのモンクを呼んだ。
瞳の光を見せてくれ。涙が邪魔で見えないだろうに。
さすがに気付いていた。彼女が俺を好きでいてくれているという噂を聞いた時から、俺も彼女の事を好きと自覚していた。
だからその瞳の輝きを、俺の網膜に焼き付けてくれ。
俺が死んでも消えない様に。ずっと、見ていたいんだ。
目を覚ますと、まだ泣きじゃくっている希羽が傍にいた。体がひどく痛む。
どうして、何故。そんな言葉しか思い浮かばない。
お前が俺たちに付いてくれれば、必ず未来は変わったのに。
出してくれた食事は味がしなかった。単純に彼女の料理の腕が無いからか、俺の問題なのかはわからなかったが。そういえば姫様が作ってくれたのもこんな味のないスープだったと、思い出して思考を放棄したくなった。希羽にひとりにして欲しいと告げて、また眠る事にした。
わかっている。夢ではない。これは悪夢じゃなくて現実だ。
一瞬しか目を瞑っていない様に思えたが、数時間は経っていたようだった。部屋の中はすっかり暗くなっており、希羽が持ってきたカンテラがその周囲だけをぼんやりと照らし出していた。
食事を置いて部屋を出ようとしていた彼女を呼び止める。
「少し、話し相手になってくれないか」
眠る前までの全身の痛みは随分と軽くなっていた。どうやら希羽が、食事を持ってきたついでに回復術をかけてくれたらしかった。
体の痛みが軽くなると、心も少しだけ軽くなった。
食事はサンドイッチとシチューだったが、宿屋で用意してくれたというこちらは普通に美味かった。彼女が作ったというスープの方は本当に味がしていなかったのであろう。
元老院の婆さんはあの後、姿を消してしまったらしい。どうしたものか。しかし元老院に戻るとなると、…色々と思い出しそうで腰が重い。
それに、希羽がやたらと俺を引き止めようとしている気がする。その事を指摘すると、何故か急にしどろもどろし始めてとんでもない事を口走った。
「私、あなたを、…クジュラさんのこと、好き…なんですっ」
「……は?」
「ああ~やっぱり忘れてください!今言うことじゃないです!」
カンテラの灯りではわかりづらいが、確かに顔を赤くしながら取り乱している。
今言うか?とか、本気だったのか、とか思ったのだが、そんな事よりも、涙目になりながら慌てふためいているのがたまらなく愛おしく思えた。
抱きしめてみたくなり手が伸びそうになったが、無いことに気付いて固まる。
そして彼女が無理に話題を変えてからは、こんな体では希羽を抱き寄せることすら出来ないのだなと、絶望しながら相槌を打つしかできなかった。
だから義手の事は、奇跡だと思った。また手が動く。これで、今度こそは。必ず彼女を守ってみせる。そう心に誓った。
我ながら尻が軽いと思う。けれど、誰でもいいわけではないんだ。それだけは、……もう居ない彼女もわかってくれるだろうか。
後に深都の人間に、俺の義手は希羽が必死になって頼み込んでくれたのだと聞かされた。
彼女に生かされたことを強く感じ、ますます想いが募る。
義手にも慣れてきた頃、さすがに続き部屋はまずいのではないかと考えて、そろそろ自分の家に戻ろうとしていたところを引き止められた。
この宿の別の部屋を借りられるとのことで、ならばと遠慮なくそちらに移る事に決める。このひと月の間に特に荷物も無いので、希羽の部屋の片付けだけして部屋を移動した。