4章 エバーネバーエンバーエデン
震える手で、今度はハッキリと自分の意志で剣を両手に握り、目の前の血まみれになった彼につきたてた。
そしてそこから何度も、何度も何度も何度も何度も何度も―――殺すつもりで刺し続けた。
それでも、何度刺されても壊れる事のない魔力炉。繰り返し治る肉体。
肺や気管支を通り、ごぽりと吹き上がる空気と液体の音。鉄臭い赤い液体が部屋の床の白を塗り替えるまで続けた。
彼の魔力炉は、真っ黒で深淵という言葉が似合すぎるほど黒に染まりきっていた。
回路も術式も何も見えない。有であり、無でもあるような、そんな色。
骨を断ち、肉を搔き分け、魔力炉のある部分を手で抉り、両手で握りつぶそうとしてもそれは消して壊れない。
そこまでして、どれくらい時間がたったのか。
気が付いた時には血まみれになった両手をぼうっと見つめたまま、キュシスタの魔力炉をぼんやりと眺めながら、双眸から涙が流れて止まらなくなっていた。
こんなにも憎しみでいっぱいになったのは初めてだった。
怒り、悲しみ、憎しみ、後悔。ある種の自傷行為。
「少しは、気が済んだ、かな…?」
ゲホゲホと咳き込みながら、かわいそうなものを見る目をこちらに向けて、倒れたままの彼はそう言った。
血で染まりきった彼の姿と、返り血で真っ赤になった自分。
「侵食されたスィノルに触れたんだ、そうなっても可笑しくはない。」
そう言われて気が付く。
この感覚が諸悪の根源の侵食による感情の爆発であったことに。
「はは、気が済んだって何?全部仕組んだ上で利用してたんだから、当然の報いのでしょ。いまさら善人面して人間にすり寄るのやめてよ、気持ちが悪い。」
「全て事実だが、付け足しておこうかな。」
ふいにべっとりと血が付いた手首を掴まれる。
解こうと強めに力を入れたが、人の力とは思えないほどの握力でそのまま骨を砕かれてしまった。
そのあまりの痛みに、声は出なかった。
「っ――――!!!」
「諸悪の根源たるはどちらなのか。永遠は今度こそ終わるとね。」
痛みでゆっくりと強めに瞼を落とし、開いた次の瞬間。
そこは木々の生い茂る、自然豊かな湖畔が広がっていた。
「すまなかったね。治しておいたよ。」
そう言われて掴まれていた手首を離される。
先ほど砕かれた箇所を確認してみると、そこは綺麗に治癒されていた。
それと、先ほどまでべっとりとついていた血の痕跡も全て綺麗になっていて、まるで何もなかったかのようで――。
「えっと、状況が把握できていないのですが…。」
「だろうね。私もどこから説明しようか悩んでいるところだよ。」
鳥たちのさえずり、暖かな日差し、緑と花の香り。ふわりと凪ぐ風が心地よく、先ほどまでの凄惨な光景さえ悪い夢だったと思えるほどだ。
気が付けば、先ほどまで真っ赤に染まっていたはずの彼の姿も、傷跡も、何事もなかったかのように元通りになっていた。
「ここは、どこなんですか?」
「ああ、ここはね。私の寿命を代償として生成した、神の監視下から外れた国だよ。エターナルという世界にいる以上、12神の監視下に縛られたままになっているからね。私が許可しない生き物はこの世界に入れないようになっている。」
彼は不老不死を利用して、自分の減らない寿命を代償にこの場所を維持し続けている。
よく見れば、鳥たちの動きは不自然に一定で規則的だった。周りの木々や草花も、視覚に神経を集中させて少し遠くまで見れば、この気温では生えるはずのない植物が育っており、中には見たことがない植物や木々も見受けられる。
自然でありそうで自然さを感じられない、この作られた世界は確かに違和感しかなかった。
「魔法の規模もそうだけれど、代償に命を使うなんて…普通じゃない。」
「ヘルクロッカで行っていた魔法と似た仕組みを利用して生成しているだけだよ。まぁ私自身、普通ではないと自覚はしているがね。」
「先ほど、何から話そうかとおっしゃっていましたけど、先に聞きたい事があるんです。これまで俺は、貴方が仕組んだレールの上を歩かされていたんでしょうか。」
「半分くらいは、そうと言えてしまうかもしれないね。」
やはり、今までの事は全て仕組まれていたのかと胸の奥がチリチリと痛む。
脳裏を過った諸悪の根源であるはこの人ではないか、という一つの終着点。
それをわかってか、彼は続けてこういった。
「ただ、それを仕組んだのは私ではないよ。そう歩ませるようにしたのは私自身で間違いないけれどね。」
「主犯は別にいるということですか。」
そしてそこから何度も、何度も何度も何度も何度も何度も―――殺すつもりで刺し続けた。
それでも、何度刺されても壊れる事のない魔力炉。繰り返し治る肉体。
肺や気管支を通り、ごぽりと吹き上がる空気と液体の音。鉄臭い赤い液体が部屋の床の白を塗り替えるまで続けた。
彼の魔力炉は、真っ黒で深淵という言葉が似合すぎるほど黒に染まりきっていた。
回路も術式も何も見えない。有であり、無でもあるような、そんな色。
骨を断ち、肉を搔き分け、魔力炉のある部分を手で抉り、両手で握りつぶそうとしてもそれは消して壊れない。
そこまでして、どれくらい時間がたったのか。
気が付いた時には血まみれになった両手をぼうっと見つめたまま、キュシスタの魔力炉をぼんやりと眺めながら、双眸から涙が流れて止まらなくなっていた。
こんなにも憎しみでいっぱいになったのは初めてだった。
怒り、悲しみ、憎しみ、後悔。ある種の自傷行為。
「少しは、気が済んだ、かな…?」
ゲホゲホと咳き込みながら、かわいそうなものを見る目をこちらに向けて、倒れたままの彼はそう言った。
血で染まりきった彼の姿と、返り血で真っ赤になった自分。
「侵食されたスィノルに触れたんだ、そうなっても可笑しくはない。」
そう言われて気が付く。
この感覚が諸悪の根源の侵食による感情の爆発であったことに。
「はは、気が済んだって何?全部仕組んだ上で利用してたんだから、当然の報いのでしょ。いまさら善人面して人間にすり寄るのやめてよ、気持ちが悪い。」
「全て事実だが、付け足しておこうかな。」
ふいにべっとりと血が付いた手首を掴まれる。
解こうと強めに力を入れたが、人の力とは思えないほどの握力でそのまま骨を砕かれてしまった。
そのあまりの痛みに、声は出なかった。
「っ――――!!!」
「諸悪の根源たるはどちらなのか。永遠は今度こそ終わるとね。」
痛みでゆっくりと強めに瞼を落とし、開いた次の瞬間。
そこは木々の生い茂る、自然豊かな湖畔が広がっていた。
「すまなかったね。治しておいたよ。」
そう言われて掴まれていた手首を離される。
先ほど砕かれた箇所を確認してみると、そこは綺麗に治癒されていた。
それと、先ほどまでべっとりとついていた血の痕跡も全て綺麗になっていて、まるで何もなかったかのようで――。
「えっと、状況が把握できていないのですが…。」
「だろうね。私もどこから説明しようか悩んでいるところだよ。」
鳥たちのさえずり、暖かな日差し、緑と花の香り。ふわりと凪ぐ風が心地よく、先ほどまでの凄惨な光景さえ悪い夢だったと思えるほどだ。
気が付けば、先ほどまで真っ赤に染まっていたはずの彼の姿も、傷跡も、何事もなかったかのように元通りになっていた。
「ここは、どこなんですか?」
「ああ、ここはね。私の寿命を代償として生成した、神の監視下から外れた国だよ。エターナルという世界にいる以上、12神の監視下に縛られたままになっているからね。私が許可しない生き物はこの世界に入れないようになっている。」
彼は不老不死を利用して、自分の減らない寿命を代償にこの場所を維持し続けている。
よく見れば、鳥たちの動きは不自然に一定で規則的だった。周りの木々や草花も、視覚に神経を集中させて少し遠くまで見れば、この気温では生えるはずのない植物が育っており、中には見たことがない植物や木々も見受けられる。
自然でありそうで自然さを感じられない、この作られた世界は確かに違和感しかなかった。
「魔法の規模もそうだけれど、代償に命を使うなんて…普通じゃない。」
「ヘルクロッカで行っていた魔法と似た仕組みを利用して生成しているだけだよ。まぁ私自身、普通ではないと自覚はしているがね。」
「先ほど、何から話そうかとおっしゃっていましたけど、先に聞きたい事があるんです。これまで俺は、貴方が仕組んだレールの上を歩かされていたんでしょうか。」
「半分くらいは、そうと言えてしまうかもしれないね。」
やはり、今までの事は全て仕組まれていたのかと胸の奥がチリチリと痛む。
脳裏を過った諸悪の根源であるはこの人ではないか、という一つの終着点。
それをわかってか、彼は続けてこういった。
「ただ、それを仕組んだのは私ではないよ。そう歩ませるようにしたのは私自身で間違いないけれどね。」
「主犯は別にいるということですか。」
