4章 エバーネバーエンバーエデン

現状から見るに、不老不死という時間を操作しなくてはならないほどの強大な魔法を使った事で影響を受けたものは目に見えてふたつ。

魔法を発動して求めたものは不老不死のうちの“不死”だと仮定して、発動は成功しており、スィノル本人が動けなくなった事そのものが代償になっているとすれば、等価にはならないだろうか?
あとは、代償と言えるほどのものかわからないが、この不可思議な現象。二重に見えている氷が張っては砕けるような音と幻影。

「シオンさん、これはあくまでも推測ですが、あのスィノルのことですから、きっと代償となる被害は最小限にとどめて自己完結するように術を組もうとしたはずです。」

「俺自身もどれくらいの代償が必要になるかまではわかりませんが、そこについては自分も全く同じことを考えていました。となると、代償はそれほど大きいものではないとみて良いと思います。」

「過去の実験レポートにも記されていましたが、まず自身に術かけてから成功例を作り、そこから規模を拡大して実施するというのが彼のスタイルですから。何らかの失敗が起き、後から補う形で2重で術をかけた、とした方が自然じゃないでしょうか。」

「不老不死には時間操作ではなく無限に再生する魔法を実行し、不老不死という結果を一時的に顕現させた。でもそれには時間干渉の術式が一部混ざっている事に気が付き、魔力暴走を起こした。そしてそれを止めるために時間操作を行った、としたら彼の思考回路の読みとあわせて辻褄が合いませんか?」

「他にも順番を逆にして考えれば、説明がつく事も増えそうです。ヘルクロッカの件を見て、時間操作では代償が大きくなりすぎると知り、別の方法…例えば自分の魔力炉そのものを書き換えるような術を実行した。けれどそれは失敗に終わり、中途半端な状態で止まり魔力暴走を起こす。それを止めるために重ねて時間干渉した。これがほぼ解に近くないでしょうか。」

ちらりと横目に見ると、顎に手を添えながら肯定するように頷くキュシスタ。正解に近い解釈ではあるのだろうが、問題はここからだ。

「俺もその2択のどちらかであっていると思います。ただ問題は、どの順番で実行するか。スィノルを救って、この国も救う為にはどうしたら良いかですよね…。」

「シオンさん。ヘルクロッカの問題を解決したのは貴方自身という認識なのですが、実際に何をしたのかはまだ聞いていませんでしたね。」

「すみません報告が漏れていて…!ヘルクロッカ全体にかかっていた術式の一部を解いて繋ぎなおしたんです。時間操作の魔法が魔力の消費量が一番重くなると見て、少し緩和する形に変えました。」

「既に構築されている魔法を再構築したんですか!?」

「え、ええ。はい。」

「はは、なんて人だ、本当にあなたという人は…。いや、取り乱してしまってすみません。それであればシオンさんおひとりで解決できるかと思います。」

「それが、スィノルの魔力炉にかかっている術式はとても難しく組まれていて、とても俺一人では、と。」

通信機からどこか楽しそうに、ふふっと笑いが聞こえてくる。

「再構築なんてしなくて良いんです。」

「と、言うと?」

「術式を分解して解除することで結果も消滅する。発動した魔法と連結している綻びがそれ以上広がらないように留めてしまえば、元通りとはいきませんが、スィノルもツィオゲスという国も戻ってきますよ。代償として支払ったもの、それはスィノル自身だと思うんです。後は当人が起きてからでしか、詳しい代償についてはわかりませんが。」

そう言われてスィノルの魔力炉を再度見て気が付く。
魔力炉から綻びて外に出ている、数本の糸に絡みつく術式のリボン。

「それって、繋がっている箇所を無理やり引きちぎるようなものですよ!スィノル自身に影響が出るんじゃないんですか?」

その綻んでいる箇所をそのまま結びなおしても、元には戻らない。
血管に穴が開いたから繋ぎなおす、というのとは全く別次元の話だ。
魔力炉にはその人の魔法の種類、属性、血族といったその人を構築する情報がまとめて入っている。
そこに綻びが出来ているというだけでも異常なのに、その綻びを断って繋ぎなおすなんて、どう考えたって彼の中にある重要な機能のどれかを失ってしまう。

「そんなの自己責任ですよ。国を守るのも王の役目です。それに、誰のせいでこんな大問題になっていると思っているんですか。」

「わ、わかりました。それで、再度確認なんですが術を解く順番については…。」

「一気に!全部です!」

「全部ですか!?」

「順番なんてないですよ。そんな事したらシオンさんにも、この国にも影響が出るじゃないですか。もしも彼が起きて愚図愚図言うようなら、俺からしつこいくらい言い聞かせておきますよ。安心してください。」

ゼファオの言葉に、本当にこの人は逞しくなったなと笑みがこぼれる。

「答えは決まったね。」

一通り会話が終わると暫く沈黙を貫いていたキュシスタが口を開くと、こちらが出した選択肢に納得した様子だ。

「その選択で私も相違ないよ。今回の件で二人にとって良い勉強になったんじゃないかな。尤も、私が提示しようとしていた選択肢よりも、そうしてくれる方が随分と楽だ。」

「他の選択肢とは?」
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