4章 エバーネバーエンバーエデン
「初歩的な事を伺うかもしれないのですが、特別な加護を受けた者以外が使う12神の魔法が、全て禁忌とされている。そして、その禁忌の魔法が使えるのは、加護を持つ特別な者だけ。だから、スィノルはこうなってしまった。という事でしょうか。」
「随分と賢いね。だが、その認識で合っているよ。12神の加護を受けた者以外がその特別な能力を引き出そうとすると、必ず歪みが発生する。今回のスィノルの件も同様に、異常が起きた結果だと私は考えている。」
「それは、本件については術式を解くだけでは問題は解決しない、ということでしょうか。」
「起きた歪みには代償が伴うのは知っているね。その代償の大きさは、叶えようとした願いの大きさに比例する。彼は自らに不老不死の術をかけるつもりだと以前私に話していたから、リスクは承知の上で実行しているはずだ。そして問題は、その代償を何かに置き換えなくてはならない。」
「時間操作の代償を置き換え、ですか…。」
「本来その代償の天秤を調整し、判決を下すのが12神の仕事。だが、今回はそれ以上に大きな問題に直面している関係で見て見ぬふりをするだろう。大した歪みも発生している様子もないからね。彼はこのまま眠りについたままになるだろう。」
「術式を解除して、代償となったものを埋めるという事は出来ないんでしょうか。」
「この複雑な術式を君の知っている誰かがそれをできるならね。それに、解除したその先に残った代償の対処はどうする?彼が構築した術式を解除するために使用するのもまた魔法、それを実行する代償がどれくらいになるかはきちんと考えた方が良い。順番というのは難しく、慎重に考えて実行する必要があるからね。」
「時間に干渉した魔法は、代償が大きくつきやすいものなのでしょうか?ヘルクロッカに訪れた際に発動した願いは、その結果に比例した代償として、大陸の寿命が減るという形で支払われていました。でも、スィノルがかけた魔法ではそれほどまでに大きな代償が必要とされていないように見えます。それであれば…。」
何とかできるのではないか?と口にしかけて冷静になった。
これは戻る事を許されない迷路と同じだ。壁を壊すにしてもその先がどうなっているかもわからないし、何が襲い来るかもわからない。
どう対処したって、見えない何かが起きる可能性だけは頭に入れておくべきだ。。
「魔法に詳しい友人に知恵を借りてみます。」
1人では解決できないのなら、力になってくれそうな人物に聞くという選択肢だってあるはず。
魔法での通信を起動した先は、ゼファオだ。
研究の国にいる彼であれば、何かしらわかる事があるかもしれない。
今の自分ひとりでは現状を把握するにはあまりにも情報が足りなさすぎる。
通信を行ってすぐにゼファオからの返答があった。
「シオンさん、どうしました?」
「それが――。」
今、目にしている現状についてをゼファオへ説明すると、返答もなく暫く黙り込んだ後で状況を改めて口にした。
通信がつながらずにツィオゲスへ来た後の国の状況、幻覚と音のこと、スィノルの状態について。おそらくではあるけれど、時間操作による代償によるものについて。
「あまりに正確な情報なので、シオンさんを疑うようで大変恐縮なのですが、今隣に誰かいたりします?」
「キュシスタという人物が先に現場にいます。」
「その方、緑色の長髪の男性で合っていますかね。」
「そうです。お知り合いでした?」
「以前シオンさんに研究結果の件で会話した際に“花の記憶を読んだ”と話した例の術師がその方です。」
「!!」
レファウルで交わした玄由との会話を思い出す。
“諸悪の根源の汚染を和らげている”のが目的で、スィノルの様子を伺いによくツィオゲスにきていたと話していた事を思い出す。そして、彼は敵ではないと添えられた一言も。
もちろん、彼には色々と聞きたい事はある。ツィオゲスで起きた過去の研究についてもそうだが、スィノルの様子をどうして伺っていたのか、どうやって汚染とやらを和らげていたのか。他にも会話にだけ上がっていた“エテルニタ・イル・ジリオ”という人物についてもだ。
明らかに普通の人生を歩んでいては知る事が出来ない知識を彼は持っている。
それがどうしてなのかは全く分からない。ただひとつ間違いないとすれば、この後の言葉選び次第では、敵にも味方にもなるということ。
通信越しではあったが、同じことを考えているのであろうゼファオの緊張が伝わってくる。
緊張感で表情が硬くなっていたのか、少しだけ間をおいてクスリと笑い声が聞こえてくる。
「お喋りなトカゲが何か話したようだね。警戒はしてしまうだろうが、私に対して交渉が必要だと構えないでほしい。協力したくないわけではないのでね。通信の相手にも聞こえているだろうが、過去も未来も私は味方のつもりでいるよ。」
「それはスィノルを助けてかつこの国も救う、という意図であっていますか?」
「もちろん。彼が今ここで死ぬことは神が定めた運命のレールから外れる行為だ。それを無視していくわけにはいかない。だからこうして先に待っていたというわけだ。ただ問題は、彼がこの魔法を発動する“前の状態”に戻すことは出来ないという事だね。」
「ちしの時と同じく、既に起こってしまった事象を戻すことはできない…か。」
ユリアがちしへと姿を変えてしまった事と同じく、既に発動してしまった契約や事象を元通りにすることはできない。
起きてしまった事象はそのままに、どう対処するかを今考えて乗り越えなくてはいけない。
「私自身はどうすれば良いかいくつかの選択肢がある。もちろん、彼を生かして国も生かすという結果でね。ただ、それを提示するだけでは君たちの為にもならないと考えている。だから、二人で相談して決めてくれないかな?」
「まぁなんとも、難しいことを仰る…。」
あまりに難しすぎる課題だと、現場にいないゼファオが苦笑した。
「知識的にはあまりお力になれないかもですけど、俺も考えてみます。」
「随分と賢いね。だが、その認識で合っているよ。12神の加護を受けた者以外がその特別な能力を引き出そうとすると、必ず歪みが発生する。今回のスィノルの件も同様に、異常が起きた結果だと私は考えている。」
「それは、本件については術式を解くだけでは問題は解決しない、ということでしょうか。」
「起きた歪みには代償が伴うのは知っているね。その代償の大きさは、叶えようとした願いの大きさに比例する。彼は自らに不老不死の術をかけるつもりだと以前私に話していたから、リスクは承知の上で実行しているはずだ。そして問題は、その代償を何かに置き換えなくてはならない。」
「時間操作の代償を置き換え、ですか…。」
「本来その代償の天秤を調整し、判決を下すのが12神の仕事。だが、今回はそれ以上に大きな問題に直面している関係で見て見ぬふりをするだろう。大した歪みも発生している様子もないからね。彼はこのまま眠りについたままになるだろう。」
「術式を解除して、代償となったものを埋めるという事は出来ないんでしょうか。」
「この複雑な術式を君の知っている誰かがそれをできるならね。それに、解除したその先に残った代償の対処はどうする?彼が構築した術式を解除するために使用するのもまた魔法、それを実行する代償がどれくらいになるかはきちんと考えた方が良い。順番というのは難しく、慎重に考えて実行する必要があるからね。」
「時間に干渉した魔法は、代償が大きくつきやすいものなのでしょうか?ヘルクロッカに訪れた際に発動した願いは、その結果に比例した代償として、大陸の寿命が減るという形で支払われていました。でも、スィノルがかけた魔法ではそれほどまでに大きな代償が必要とされていないように見えます。それであれば…。」
何とかできるのではないか?と口にしかけて冷静になった。
これは戻る事を許されない迷路と同じだ。壁を壊すにしてもその先がどうなっているかもわからないし、何が襲い来るかもわからない。
どう対処したって、見えない何かが起きる可能性だけは頭に入れておくべきだ。。
「魔法に詳しい友人に知恵を借りてみます。」
1人では解決できないのなら、力になってくれそうな人物に聞くという選択肢だってあるはず。
魔法での通信を起動した先は、ゼファオだ。
研究の国にいる彼であれば、何かしらわかる事があるかもしれない。
今の自分ひとりでは現状を把握するにはあまりにも情報が足りなさすぎる。
通信を行ってすぐにゼファオからの返答があった。
「シオンさん、どうしました?」
「それが――。」
今、目にしている現状についてをゼファオへ説明すると、返答もなく暫く黙り込んだ後で状況を改めて口にした。
通信がつながらずにツィオゲスへ来た後の国の状況、幻覚と音のこと、スィノルの状態について。おそらくではあるけれど、時間操作による代償によるものについて。
「あまりに正確な情報なので、シオンさんを疑うようで大変恐縮なのですが、今隣に誰かいたりします?」
「キュシスタという人物が先に現場にいます。」
「その方、緑色の長髪の男性で合っていますかね。」
「そうです。お知り合いでした?」
「以前シオンさんに研究結果の件で会話した際に“花の記憶を読んだ”と話した例の術師がその方です。」
「!!」
レファウルで交わした玄由との会話を思い出す。
“諸悪の根源の汚染を和らげている”のが目的で、スィノルの様子を伺いによくツィオゲスにきていたと話していた事を思い出す。そして、彼は敵ではないと添えられた一言も。
もちろん、彼には色々と聞きたい事はある。ツィオゲスで起きた過去の研究についてもそうだが、スィノルの様子をどうして伺っていたのか、どうやって汚染とやらを和らげていたのか。他にも会話にだけ上がっていた“エテルニタ・イル・ジリオ”という人物についてもだ。
明らかに普通の人生を歩んでいては知る事が出来ない知識を彼は持っている。
それがどうしてなのかは全く分からない。ただひとつ間違いないとすれば、この後の言葉選び次第では、敵にも味方にもなるということ。
通信越しではあったが、同じことを考えているのであろうゼファオの緊張が伝わってくる。
緊張感で表情が硬くなっていたのか、少しだけ間をおいてクスリと笑い声が聞こえてくる。
「お喋りなトカゲが何か話したようだね。警戒はしてしまうだろうが、私に対して交渉が必要だと構えないでほしい。協力したくないわけではないのでね。通信の相手にも聞こえているだろうが、過去も未来も私は味方のつもりでいるよ。」
「それはスィノルを助けてかつこの国も救う、という意図であっていますか?」
「もちろん。彼が今ここで死ぬことは神が定めた運命のレールから外れる行為だ。それを無視していくわけにはいかない。だからこうして先に待っていたというわけだ。ただ問題は、彼がこの魔法を発動する“前の状態”に戻すことは出来ないという事だね。」
「ちしの時と同じく、既に起こってしまった事象を戻すことはできない…か。」
ユリアがちしへと姿を変えてしまった事と同じく、既に発動してしまった契約や事象を元通りにすることはできない。
起きてしまった事象はそのままに、どう対処するかを今考えて乗り越えなくてはいけない。
「私自身はどうすれば良いかいくつかの選択肢がある。もちろん、彼を生かして国も生かすという結果でね。ただ、それを提示するだけでは君たちの為にもならないと考えている。だから、二人で相談して決めてくれないかな?」
「まぁなんとも、難しいことを仰る…。」
あまりに難しすぎる課題だと、現場にいないゼファオが苦笑した。
「知識的にはあまりお力になれないかもですけど、俺も考えてみます。」
