4章 エバーネバーエンバーエデン

1周目。それは彼に弱さにつけ込まれてしまったからこその結末だった。もう二度と大切な人を奪われたくない、そんな一心で突っ走ってしまった自分の愚かさが招いた結果だった。
ただユリアを取り戻してまた再び会いたいという単純な理由。それはフェオとほぼ同じ動機だった。そのひとつの理由が共鳴して、あっという間に飲み込まれてしまった。
そこには、もうシオンの魔力反応の欠片もなく、すっかり取り込まれてしまった後だった。

その後、何が起きたのかをユリンを通して記憶が流れ込んでくる。

敵対して瀕死になった稚紫が、ユリンの名前を呼んで叫んだ。

『ユリン!貴女しか出来ない事がある!時間を超えてシオンを救って!』

血を吐きながらも必死にそれだけ伝えた彼女は良き絶え絶えに呪術を唱える。
記憶の継承。ユリアが抱えていた、時間に関する観測とそのデータ。
今皆がいるこの場所こそ、12神のうち“時間”を司る神が眠るその場所である事。

繋がりが最も近い場所で発動すれば、それはより成功率が高まる。

他の皆が戦っている中で、ユリンはなんとか時間を巻き戻す術を構築しようとした。魔法に対して深い知識も経験もなかったけれど、これまで歩んできた自分自身の精一杯を全てぶつけるかのように。

それで生み出されたのは、時間を巻き戻す魔法ではなく“歴史を改変して時間を巻き戻す術”となって実行された。


2周目。幼くなった姿を見て、時間を巻き戻すことに成功したと喜んだのも束の間。自分の境遇が変化していることに気が付き、世界のなにもかもが変わってしまっている事に気が付く。
同じエターナルであって、同じではない別の世界に来たような感覚。今までの常識が異なっており、歴史、魔法、国の在り方の全てが以前と違う。魔法の国で出生した事は同じだった。そこから姉であるユリアが山岳地帯に引っ越し、シオンと一緒に住むまでは一緒だった。ただ、出会うのが早すぎた。魔法の国で、ちしとユリアとユリンの三人が出会い、契約を交わす。そして、交わした契約の中で各々が気付き、思い出す。ここが不完全な魔法で歪んでしまった世界であると。
唯一完全に記憶を持ったままのユリンは、ユリアとちしともその記憶を共有してシオンを守ろうとするも、侵食の影響を強く受けたシオンは精神を崩壊させ、真実を受け入れる事を拒み、自ら命を絶ってしまう。
それから、フェオと再会するまでのリミットの間で出来る限りの情報をなんとかかき集めた。そうして、不完全だったはずの魔法について学び、3周目へと移行する。

『ねえ、シオン。あなたを失ったあの時、私はただ時間が戻ればいいとだけ願った。でも、実際には違っていたの。私が先回りしてすべてを解決すればいいって、そう思い込んでいたのが間違いだった。』

誰にも頼らず、一人で運命をねじ伏せようとした傲慢さが、結局は一番残酷な形で奪っていった。誰かを本当の意味で“救う”っていうのは、一人で背負うっていう事じゃなかったはずなのに。

ただ、フェオという人物の存在について少しずつ情報は得られた。彼は多くの人には見えない存在であり、長い眠りについている間は動けない事。そして、呪いのせいか最愛の人を見つける事は絶対にできないように仕組まれている事。12神に接触したことで、その情報を得ることは出来た。


3周目に移動して、そこにシオンは存在していない事にすぐ気が付いた。どこを探しても、何を調べても出てこない。でも、この世界には“魔法”がある。
2周目で得たエターナルという世界がどのような構成で出来ており、今後どうなるのかをわかった上で利用した。
より魔法について学ぶ必要があったから、研究者としてエタルニタ・イル・ジリオとして潜入を試みた。
これまでの知識を活かし、幼少期にしてエリートだった彼女は、スィノルからも認められ、研究員のトップとして君臨するも、禁忌に触れすぎてきた自分自身の魔力炉が崩壊してきている事に気が付く。
せめて次につなげられるようにと種を蒔く事にした。次で最後にするために、確実な方法のみを選び取れるように、残酷な手段をいくつも取って、多くの犠牲を代償として実験を行った。
12神も利用して、稚紫と繋がりを持ち、レヒューズを管理するキュシスタを通し、すべてを利用して。

『私は自分を切り分けた。記憶を、想いを、祈りの全てを。そうしないと、この絶望と願いの重さに魂が砕けてしまいそうだったから。』

そこで、レヒューズでフェオが眠っていたことを知り、本来はずっと眠りについているはずだった彼を起こしたのがその国を管理しているその人の魔法のせいだったと知った。
でも、絶望している暇はない。彼の振りまく力は、侵食して人の負の感情を増幅させることが出来るもの。それは意図的にも、無意識にも振りまいてしまう厄介な能力で、防ぐためには特別な能力を持つ者の術を借りる必要がある事まではわかった。
でも、それを防ぐには過去の英雄の能力を模倣して、1周目のシオンに託すしかなかった。
全てを断ち切り、治す力ではなく分解して変えてしまう能力を与えるために、新たに再構築しなおす必要があったの。

4周目で、ようやく全てが計画通りに動いた。エタルニタとして、研究員として、シオンという存在を顕現させた後、ついに私の身体は限界を迎えた。稚紫に記憶を託し、今回でダメならもう次は諦めようと、もう動かすのもようやっとの身体でこれまでをずっと遠くから見つめていた。
ちしを通して。そうして気付いたことがあった、唯一変わらないもの。
レヒューズを管理しているキュシスタ、12神、フェオだけはその対象から外れているということに。だから、だからうまくいかなかったんだと気が付いた頃には、体はもう動かなくなっていた。
託せるのは、あとはシオンたちだけ。


パサリ…と力なくシーツの上に落ちたユリンの腕。魔法を使った事で疲れ果てたのだろう、すやすやと寝息を立てて眠りについていた。
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