4章 エバーネバーエンバーエデン

「あ、その前にネックレスの答え。わかった?全部で4つ、私の耳飾りの二つと、シオンが持っている一つ。壊れたのはふたつだけど、計算上では数が合わない。でも、残りのひとつは誰かが持っている。」

記憶の中には存在しないけれど、きっとそれは双子の妹・ユリンが持っている。
そして、それをこの4周目の世界に持ってきたのは、一番最初に歴史を書き換えたというユリン自身。

「もうわかってるんじゃない?」
「ひとつは、どこかで眠っているユリンが持っている。壊れた二つは、3周目の世界についての引っ掛けの問いだった。これで合っているだろうか。」
「正解。」
「そして、1周目の…今の俺が作ったのを誰かがずっと大切にここまで持ってきてくれてた。おそらく、持ってきてくれたのはユリンだろう。」
「それも正解。」
「約束については、まだ思い出せないんだ。ごめん。」
「いいの、思い出せなくて当たり前だもの。」

そう口にした目の前にいる彼女は、今までに見たことがないくらい優しい笑顔を浮かべていた。

「手のひらをこっちに向けて出してちょうだい。」
「ん?」

手をパーの形にして彼女に手のひらを向けると、そっと人差し指で描かれる。

「これが記憶のキーのひとつなの。私の名前、本来は人の死と血肉から生まれたから“ちし”って名乗ってたんだけど、異国の文字からマスターが教えて名付けてくれて。」

見たこともない文字で描かれたその記号のような何かの意味は分からなかったけれど、ゆっくりと描かれるそれはどこか懐かしかった。

「あどけなさの残る子を意味する文字と、紫苑(しおん)っていう花の名前から1文字ずつ取って”稚紫(ちし)”って読むそうよ。素敵でしょう?」
「っ…!」

過去の記憶がまた蘇ってくる。
視界がぼやけて、流れ込んでくる大量の記憶。

その中にはかつて一緒に旅をしていたキリシス、スィノル、ゼファオ、憂夜、ユリンの5人の姿。始まりは同じ、山岳地帯にあるあの小さな町から始まった。
呪術での契約を結んだと知らない自分に、真っ赤な惨状が広がる室内で、突如悪魔のような姿になったユリアと会話する。彼女は“ちし”と名乗った。
そこから転移装置を使って国々を渡り歩き、最初の頃と同じようにユリアを取り戻そうと稚紫と敵対していた。

そのうちに、カームでキリシスと出会い師匠の敵討ちの為に協力し、ツィオゲスで魔法の研究を深めたい一心のスィノルと出会い、レファウルで次期国王になる為の修行として利害が一致して同行する事となる。
その先でヘルクロッカに良き、信仰心が薄まり迫害を受け始める憂夜を助け、魔法の国でユリアと双子の姉妹だというユリンに出会う。

自分たちの目標と最初の願いは、12神に出会って願いを聞き入れてもらう事だった。
それぞれ求める問いに対して答えは果たしてあるのかどうか、それをただ聞く為だけに旅をしていた。

そこではちしを始めとして、カームで敵対したルオ、ツィオゲスで会った玄由、レファウルで戦闘したチェリア、ヘルクロッカで対話したハルとそれぞれ巡り合っていた。
ただ、今と明らかに違うのは全員と敵対していたことだ。

その時の自分は、稚紫たちの話を一切聞こうとはせず、レヒューズにかけられた時間操作の魔法で歪んでしまった魔法を解除するために、時の神が眠ると言われている柱のある土地を目指してただ進んでいた。

自分たちの行動の理由の全ては、止まった時間の影響を受け、本来叶うはずのまま止まっている願いをかなえるために。
レヒューズにかけられた魔法を解除する事は、彼女たちからすれば自分たちの命に関わる問題だ。それを阻止せずにいようと放置する方がおかしな話で、敵対するのは当然だった。

キリシスの動機は仇討ちと時間を止めた張本人をぶん殴るという正義感からだったけれど、他の4人はそれぞれ違っていた。
スィノルは自身にかけた不老の術が成功しているかどうかがわからなくなってしまう事に不満を持ち、止まった時を動かしたくて同行する事になった。
ゼファオは、兄が命の灯を代償に国に結界を張っていたのだが、時間が止まった事でそれが発動しなくなり、自身が次期国王へならなくてはいけない責任感と焦りから、原因を解消すべく旅を共にした。
憂夜は国民からの支持を保てなかったのは、止まった時間で育たなくなった作物や季節の移ろいがなくなった事が国民の不信によるものだと思い、時間を再び動かそうと信念をもっていた。
そして、ユリアは姉であるユリンの死を聞いて、稚紫からユリアの体だけでも取り返そうとそう考えていた。

それぞれの願いが、それぞれの叶えたい欲望がひしめき合い、結果としてすべてを壊す形となってしまった。

あの時、諸悪の根源の彼・フェオが現れて皆を取り込み、全てを崩していった。
その後の事は、自分の記憶の中には存在しなかった。
後は意識ごとドロドロに溶かされ、深い闇の中に混ぜこまれていく感覚だけが残っていた。
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