今日から始まる島ライフ!







「すっかり遅くなっちまったなぁ……そろそろ戻らねぇと」
飲み屋の灯りがまばらに点在する夜のアーケード街で、春日は歩む速度を緩めて呟いた。腕時計に目を落とすと時刻はもう十一時を過ぎていた。夜風に当たるという口実は、そろそろ効力をなくす頃だろう。
「仕方ねぇ、帰るか」
はぁ、と溜息を吐いて来た道を引き返す。わかってはいた。こんな夜中に店を開けている宝飾店など、あるはずも無い事は。
「指輪……どうすっかなぁ」
とぼとぼとアーケード街を歩きながら再び胸に溜まった息を吐き出した。曲がりなりにも桐生にプロポーズをしたのだ。せめて指輪くらい渡さないと格好がつかないが、それに気がついた時には祝賀会が始まる直前で街へ向かう余裕もなかった。
「ダサ過ぎだろ、俺ぇ!」
不甲斐ない自分に苛立って荒げた声が人気のない夜道に響いて消える。ちょうど通りすがった酔っ払いの男に「兄ちゃん、どうしたぁ?」と笑われて春日は慌てて我に返った。往来で声を張り上げてしまった事を恥ずかしく思いながら、そそくさとアーケード街を出る。すると、ズボンのポケットから聞き慣れた音が流れ出した。
「やべっ」
着信相手は桐生だろう。なかなか帰ってこない自分を心配して掛けてきたに違いない。帰りが遅くなったくらいで機嫌を損ねる人じゃない。そう思いながらも、どこか怖々として春日はスマートフォンを取り出した。なにせプロポーズの後だ。恋人をほったらかして夜の街をふらついている男を、はたして桐生はどう感じるだろうか。絶対にマイナス点だよな、と三度目の溜息をつきながら通話ボタンを押そうとして――春日は目を丸くした。
「サっちゃん……?」




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