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影響
――最近、大胆になったな。
ベッドに寝転がって桐生の行動を眺めていた真島は心の中でそう思った。このところ桐生は良い意味で変わった。今みたいにベッドで寛いでいると、近くに寄ってきて身体に触れたりキスをするようになった。言わばセックスの誘いを自分から行う積極性が芽生えてきたのだ。
「……兄さん」
身体に跨って首筋を食んでいた桐生が顔を上げる。熱っぽい瞳に見つめられても、真島はベッドに投げ出した腕を持ち上げようともしなかった。
「気分じゃねぇか?」
「その気になるかは桐生ちゃんの頑張り次第や」
「……でけぇ態度しやがって」
小さな舌打ちをしながらも桐生の口元は笑んでいた。再び唇が首筋や鎖骨を滑り始める。リップ音を鳴らして、下へ下へと降りてゆく。たどり着いた先の脇腹にも、音を立てるキスが何度も繰り返された。
「桐生ちゃんは真似っこが上手やなぁ」
言葉の意味を問うように視線を持ち上げた桐生に、にんまりと笑って言ってやる。
「それ、今見とるドラマの真似やろ」
最近、二人で毎日観ている海外ドラマがある。それのエロティックなシーンから学んでいるのだと察していたが、今まで言わずにおいていた。桐生に積極性が生まれるのは良い事だ。けれど、あまりに真似が上手いと少しばかり寂しくなる。キスをしてくれる時のぎこちなさが恋しいと真島は思っていた。
「バレてたか。兄さんは何でもお見通しだな」
「誘い下手が急に上手になったしな」
嫌だったか、と聞きながら桐生が頬を擦り合わせてくる。そういう仕草まで余す所なくコピー済みらしい。
「嫌やったら反応せぇへんわ」
桐生の手を取って自らの股座へと導き、熱をもった自身に触れさせる。すると、顔がわずかに俯いた。ここで恥じらいを出すなんて、本当にこの男には天性の誘惑の才能があるとしか思えなかった。
「桐生ちゃんは真似なんかせんでも、そのまんまで十分魅力的やで」
言って、桐生をベッドに押し倒す。同じように首筋に噛みついて身体中を愛撫すると、すぐに甘い声が上がり始めた。
「……っ、兄さん…」
背中に回った腕に引き寄せられて顔が近づく。呪縛から解かれたのだろうか、ドラマようなスマートなキスをする桐生は、もうそこには居なかった。何にでも影響されやすい奴だと胸の内で笑う。たどたどしい唇を、ただ、愛しいと真島は思った。
(了)
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