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予知夢



真夜中。桐生の病室の窓がガラリと開いた。
「桐生ちゃ〜ん!攫いに来たでぇ!」
高層階である事を忘れるような身軽さで闖入者の真島吾朗が室内に降り立つ。高い壁をどうやって登って来たものかと桐生は首を傾げたが、すぐに思考を放棄する。人間離れした技を簡単にやってのける男だ。考えるだけ無駄な時間だった。
「攫い…??それより、なんだ?その格好は?」
桐生が聞くと、真島は腕を組んでふんぞり返った。頭に被っている帽子の羽飾りを優雅に揺らしながら、彼は答えた。
「見てわからんか?海賊や、海賊!」
「俺が聞きてぇのは、何でそんな格好してんのかって事だ。仮装パーティーでもするのか?」
「ちゃうわ。……まあ、いきなり海賊や言われても信じられん桐生ちゃんの気持ちもわかる。仮装パーティーや思うんならそれでええ」
窓際に立っていた真島がベッドへと近づいてくる。動向を伺っていると顎を指先で掬われた。目を瞬かせる桐生に真島は言う。
「俺は海賊やからな。一番のお宝、頂戴しにきたんや」
眩い月を覆っていた雲が流れる。逆光で真島の顔が見えなくなる。にたり、と笑んだ口元が名を呼ぶ。気がつけば桐生は、差し出された手に自らの手を重ねていたーー。


「という夢を見たんだ」
「……なぁんや、それ。なんで俺が海賊やねん」
愛刀でリンゴを剥きながら真島が呆れたように言う。まったくだ、と笑った桐生は、見舞い品のリンゴをかじる真島に「でも似合ってたぜ、海賊姿」と追い討ちをかけた。
「案外、海賊になったら上手くやれるかもな」
「なるわけないやろ、そんなもん」
「兄さんは昔から器用だからな。今だって漁師として生計立ててんだ。海賊でも似たようなもんだろ」
「船に乗るとこしか共通点ないやんけ!」
いたずらっぽく笑んだ桐生をよそに、真島はまたリンゴを一口かじって窓の外に目をやった。
「ええ天気やなぁ。眠くなるわ」
「少し眠るか?兄さんも海賊の夢が見れるかもな」
「えーかげんにせぇ!」
二人の笑い声が室内に響いた。
桐生の見た夢がこれから後の未来に現実になろうとは、この時の彼らは、まだ知る由もないのであった。


(了)
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