中学生編






式を終え教室に戻ると俺は各方面から絡まれその場を動くことすらできなくなっていた。
このままだと天川さんに会う時間がなくなってしまう。
集まってきてくれたみんなには申し訳ないけど何とかしてこの場を抜け出さなくては…!



「ごめん!大事な用事があるからまたあとで!本当にごめん!」



残念そうな声が上がったがそのまま振り切り俺は天川さんのもとへ駆け出した。







一通り友人と別れのあいさつを終えた私は教室を抜け出して一人階段に座ってスマホを眺めていた。
神田くんがああなることは予想してたけどあそこまで集まるかしら。
けどあそこで呼び出すのは他の人に申し訳ないし…。
情けなくてため息をつくと後ろから忘れられない甘ったるい声がした。



「あれ〜?一人で寂しく何してるのかな?♡」
「…別に、あなたには関係ないでしょ」
「は?関係大アリなんですけど。何?またここから突き落とされたいの?」



私が眉間に皺を寄せると望月さんは「冗談だから。半分本気の」と言いながらひとつ開けて隣に座った。
半分本気で思ってる冗談は冗談とは言わないのでは?
…なんて言うと面倒なことになりそうなのでそのまま飲み込んだ。



「何の用。今さら仲直りでもしに来たのかしら」
「やだキモいこと言わないで。別に私ら友達でもないし。あんたのそういうところ嫌〜い」



あの件で全て知られたからか、それとも今日で最後だからなのか、彼女は息をするように私に向かって嫌味を言い続ける。
これ以上ないくらいに私のことが嫌いだというのが伝わってくるので逆に清々しい。



「ねえ、用がないなら私行くけど」
「…私、このあと優輝くんに告白しようと思うんだ♡」
「…は?」



唐突に彼女はそう言った。
さっきまで散々嫌味を言っていたのにどうしてその話になるの?
困惑する私に構わず望月さんは続ける。



「あれからすご〜く反省したから、もしかしたら気が変わって私のこと選んでくれるかもしれないし!え〜どうしよう緊張してきちゃった〜♡」
「…呆れた。そんなわけないでしょ」
「どうしてそう言い切れるの?」



望月さんは全てを見透かしたような瞳で私に問いかける。



「自分で呼び出す勇気もなくて一人でこんなところにいるような奴がどうしてそう言えるの?優輝くんがあんたとずっとに一緒にいたから?好きって言われたから?待っていれば必ず自分のところに来てくれるとでも思ってるの?」
「それは…」
「私は本気だよ。今から優輝くんのところに行って告白する。あんたはそこでじっと待ってればいいよ。まあ優輝くんはいろんな子に呼び出されてあんたのこと構ってる暇なんてないだろうけど!」



パシンッ
と皮膚を叩く音が響いた。



「…望月さんにだけは渡さない」



そう宣言すると私の足は神田くんの元へ駆け出していた。







「なんで自分のこと叩くんだよ!!!あ〜もう!!!本当大っ嫌い!!!」







何回も天川さんに電話をかけてるけどなかなか繋がらない。人も少なくなって来たし学校もいつまで開いてるかわからないし…。
そんな不安と焦りを抱きながら再び電話をかける。



『あ、天川さん!やっと繋がった〜…まだ学校にいる?』
『そのまま聞いて』



それはいつになく真剣な声だった。



『…去年までの私はこのままなんの変哲もなく平穏に3年間を終えるんだろうなって思ってたの。それは私が望んでたことで何も問題はなかった。でも4月のあの日、神田くんと関わってそれが叶わなくなった。

最初は怖かったの。私と神田くんとじゃ住む世界が違うし何より…神田くんは私にとって眩しすぎた。悪い人じゃないってわかってるのに心のどこかで怖がって自分で距離を取った。…それでも神田くんは諦めずに歩み寄ってくれて、少しずつそっちの世界に踏み出す勇気ができて私も神田くんのこともっと知りたいと思った。

でも踏み出した先はいい事ばかりじゃなくて、正直後悔したこともあった。…それでも逃げなかったのは神田くんといるのが楽しいと感じたから───!』



ふと窓を見ると反対側の棟に彼女の姿が見えた。
彼女も同じタイミングで窓を見たようでお互いの視線が交わった。
そしてどちらからともなく2人の足は同じ方向へ進み出す。



『俺も怖かった。天川さんと仲良くしようと近づくたびに迷惑なんじゃないか、嫌な思いさせてるんじゃないかって考えてばかりで!実際に嫌な思いさせたことに変わりないけど!

それでも!俺は諦めるわけにはいかなかったんだ。ずっと天川さんのことが───!』



『…っ、神田くん…』



電話越しに聞こえる声がだんだんと近づいてくる。
早く会いたい、その気持ちだけが2人を動かした。
あともう少し、この階段を駆け降りた先に───。



「神田くん!」
「天川さん!」



辿り着いた先は2人の思い出のたくさん詰まった図書室。
俺たちはほとんどの時間をここで過ごした。
だからきっとここに向かうとわかっていたんだ。
扉を締めお互いの顔を見つめながら乱れた呼吸を整えるとどちらからともなく「あの」と切り出す。



「待って俺から言わせて。…というか俺が言う」



そう宣言するも伝えたい言葉は緊張で喉につっかえてなかなか出てこない。
気持ちを伝えることはこれが初めてなわけじゃないのに!
肝心な時になんで俺は────!



「…あ」



彼女は何かに気づいたかのようにそう呟いた。
誰か人でも来たのだろうか?
周りを見回すがそんな様子はない。
「なんかあった?」と尋ねると彼女はくすくすと笑いながら内カメラにしたスマホの画面を俺に向ける。



「覚えてる?あの時も寝癖ついてたの」



忘れるわけがない。
4月のあの日も俺の寝癖がはねていたから天川さんと話すきっかけができたんだ。
まさか今日も同じことが起きるなんて思ってなかったけど。
───でもおかげで肩の力が抜けた気がする。



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「───ずっと好きでした。俺と付き合ってください…!」



気持ちを伝えると彼女は一度足元に視線を逸らし、そして再び俺に視線を戻し口を開いた。



「…私は地味だし、面白い話もできないし、一緒にいても楽しませられるか不安だけど、それでも!…神田くんの隣にいたい…!」



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「神田くんのことが好き…!私でよければよろしくお願いします!」







君の世界に入りたいと願った俺と、
平穏な日々を過ごしたいと願った私。



正反対な願いは反発し合いながらも、徐々に交わり、そして一つの望んだ形に姿を変えた。



俺の望んだ君のいる世界は美しく咲いて、
私の望んだ君のいる世界は優しく輝いている。



隣に君がいるなら大丈夫。
二人の世界はきっと幸せで満ち溢れるから───。









最終話「君のいる世界」




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