短編




私はお姫様になりたかった。





昔々、とあるお城にとても可愛らしい一人のお姫様が生まれました。そのお姫様はみんなに愛され、欲しいものは何でも手に入り、何不自由なく暮らしていました。

そんなお姫様はある日、とても素敵な王子様と出会いました。お姫様はどうしてもその王子様とお付き合いがしたく、プレゼントをしたり、デートに誘ったりと振り向いてもらえるように努力をしました。

しかし王子様は一向にお姫様に振り向いてくれる気配はありません。どうしてだろうと思い、ある日変装して王子様のあとをついて行きました。
するとなんということでしょう。王子様は地味で何の取り柄もない町娘に夢中になっていたのです。

それがわかった途端、今まで味わったことのない黒くて吐き気を催すような感情が内に渦巻きました。私は必死に努力して振り向かせようとしているのに、あんな町娘に私は負けている。そんな事実がお姫様には十分な動機だったのです。

お姫様は町娘の後を追い、その瞬間を待っていました。そして─────。

ドン、と後ろから突き落とした瞬間でした。お姫様の横をものすごい速さで駆け抜ける一人の男性。その人は私が恋焦がれた王子様でした。
身を挺してまで町娘を守るその姿を見てお姫様の心はすっかり冷め切ってしまいました。王子様はやっぱりその町娘のことが好きで、お姫様になんて全然興味なくて、挙げ句の果てに突き放される。

これまで私がしてきたことは一体何だったのだろう。そんな焦燥感がお姫様を支配しました。そんなお姫様の元へある一通のお手紙が届きました。差出人はあの町娘。きっとあの事を告発する内容だろうと覚悟を決めて開くとその内容にお姫様は驚きました。



「私はあなたを許します」



その一言にお姫様の瞳から大粒の雫がこぼれ落ちました。許されないようなことをしたのに彼女は私を許してくれる。その時お姫様は思いました。なぜ王子様がこの町娘に夢中になるのか。彼女にあって私にはないもの───。





「雑誌の表紙の光瑠ちゃんがさー!!」
「ね!すっごいお姫様だったよね!かわいい〜!!」


私がお姫様なんておこがましい。私はお姫様になんてなれない。せいぜい悪役令嬢よ。

“お姫様になりたい”なんてそんなの小さい頃の夢。今の私はモデルとして上を目指すことで精一杯。それに本当のお姫様っていうのは────。


「いつまでそんなこと言ってるのよ」
「あんたに関係ない」
「…今回の望月さんすごく素敵だった。本当にお姫様みたいで綺麗」
「中身はかけ離れてるけどね」
「ねえ、もう縛られなくていいんじゃない?貴女も、」
「うるさい!!!」


その言葉を口にしてハッと我に帰る。ああもう、本当嫌い。いつまでも私につきまとってくるあんたが嫌い。あんたは王子様に選ばれたお姫様なんだから大人しくしてればいいのに。


「私はなれないんだよ…っ!」






私は“優輝くんの”お姫様になりたかった。



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