誕生日SS(2021.05〜2022.03)





「あー…つっかれた……」



机に突っ伏して少しばかり現実逃避をしていると隣からふわりとコーヒーのいい香りが漂ってきた。どうせあいつだろうと思って起き上がると、一体何をしているんだと言わんばかりの視線を向ける桐ヶ谷先生が立っている。



「…なんですか桐ヶ谷先生」
「今夜開けとけ。飲みに行くぞ」



彼はそう一言放つと自席に戻り再び仕事に取り掛かった。
桐ヶ谷先生から飲みのお誘いなんて滅多にない、むしろいつも私から誘うのだけれど…。何かあったのだろうか…と心配するが私の脳内はすぐにお酒が飲める喜びでいっぱいになった。



───放課後



仕事を終えた私たちは桐ヶ谷先生が予約をしていたというお店へ向かっていた。駅から少し歩いて路地裏に入るとチェーン店が並ぶ表通りとは違っい個人経営の創作料理店や高級感のあるバーなど知る人ぞ知るようなお店が並んでいた。完全に居酒屋だと思っていたので何だか緊張してきた…。



「着いたぞ」



たどり着いたのはいわゆる会員制のバー。よく見ると「本日貸切」のお知らせが出ている。



「私と飲むのにわざわざ貸切にしたんですか?」
「…さっさと入れ」



桐ヶ谷先生に言われ薄暗い店内に足を踏み入れると中から「待ってたわよ〜!」と聞き覚えのある声がした。もしかしてと思い駆け寄ると黒のライダースに身を包んだ村山先生がカウンター席に座っていた。さらに後ろから「私もいますよ!」と川崎先生が顔を出す。



「桐ヶ谷先生!?これどういう状況なんですか!?」
「北乃先生の誕生日パーティー」



真顔でそう告げられますますわからなくなってきた。私の誕生日パーティーをするためにわざわざお店を貸し切っていつものメンツを集めたの?桐ヶ谷先生が?私のために?



「まあまあ細かいことは置いといて派手にやるわよ!北乃先生にとびきりおいしいお酒用意してるの!」
「今日は桐ヶ谷先生の奢りなので気にせず飲んでくださいね」
「そうなんですか!?ありがとうございます!」



私がお礼を言うと桐ヶ谷先生は優しく微笑んで「気にすんな」と呟いた。
…そういえば桐ヶ谷先生は生徒たちの誕生日を必ずお祝いしてるとか言ってたっけ。そのことを考えると今日私のためにサプライズを仕掛けてくれたことも納得できるな。無愛想なくせに結構かわいいところあるじゃん!



「…なんだよ」
「なんでもないでーす!ほらほら桐ヶ谷先生も早く!」



素敵なお店を貸し切って仲のいい同僚と大好きなお酒を交わす特別な夜はまだまだ続く────。



2022.03.18
『北乃紗耶香と特別な夜を』


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