「…よし、かわいい」



この特別な制服を着るのはもう何回目だろう。
好きなアイドルに貢ぎたいからっていう理由で始めたこの仕事。別にこの業界に興味なんてなかったけど、やってみたら意外と自分に合ってたし、
だんだん仕事に対しての意識も変わって“わたあめの王国から来た のあ”に会いに来てくれる人に最高の対応を心がけてたらいつの間にかお店の一番人気になっていた。



「のーあっ！準備できた？」
「うん♡いつでもいけるよ♡」



フロアから私を呼ぶ声が聞こえる。ご主人やお嬢様、それから仲間たちみんなが私のことを待っていると思うだけで心の底からワクワクする。
他の子目当てで来てくれた人もいるだろうけど、それを上書きしちゃうくらい のあ に夢中にさせてあげるんだから。



「おまたせしました！Melty Ribbon(めるてぃ りぼん)の大人気メイド のあ のバースデーイベント開幕だよ！それじゃみんな準備はいいー？一緒に本日の主役を呼ぶよ！せーのっ！」



「「「「のあちゃーん！」」」」



その掛け声を合図にイメージカラーである黄色のサイリウムに包まれたフロアへ駆け出した。




「今日は のあ のために来てくれてありがとう！♡今日しか見れない特別な のあ からぜ〜ったいに目を離さないでね♡」



＊



私が“わたあめの王国から来た のあ”でいられる時間なんてきっともう長くないと思う。一番人気なんて今だけだろうし、そのうち卒業だってする。
…でも叶うならいつまでもいたい。

Melty Ribbon(めるてぃ りぼん)の一番人気メイド“のあ”はみんなのおかげでここにいる。



「のあ、今と〜っても幸せだよ！♡」



だからみんな、私のことずっと見ててね。





2022.03.07
『のあでいられる時間』