誕生日SS(2021.05〜2022.03)
なんやかんやあって藤田一男の身体は現世で生死の堺を彷徨っており、そんな状況の俺の精神に「のあ」というメイド服を着た少女が干渉してきてなぜか俺の命運を握られているのであった。
「か・ず・お・さん♡今日が何の日か知ってますか?♡」
「お前が死ぬ日」
いつも通りにお互いを罵倒し落ち着いたところで「何の日だよ」と聞き返した。
「今日は現世だと1月24日!一男さんの誕生日ですよ!♡」
「…別にそんなんどうでも───」
べしゃ
そう言いかけた瞬間突然視界が真っ白になった。
なんだこれ…べたべたして甘い香りがする。
ただ一つ明確にわかることはあの女に対しての殺意だった。
「昨日頑張ってケーキ作ったんですよ♡どうですか?♡美味しいですよね?♡素直に用意しても食べてくれなさそうなので直接顔にぶつけてみました♡あは!♡私の手作りケーキ食べてくれましたね♡」
最初からこうするつもりだったんだなというのは十分伝わってきた。もちろん心底気に入らなかったので地面に向かって吐き出してやった。それを見た彼女はそこまで予想通りだったのか奥からまたケーキを取り出しては俺に向かって投げる。
そこから先はもうめちゃくちゃだった。無限に湧いて出てくるケーキのぶつけ合い。全身クリームまみれになって何が何だかわからなくなっていた。
「…クソ、なんで誕生日にこんな目に遭わなきゃならねえんだよ」
「そんなの決まってるじゃないですか。どうせつまらない人生を送ってきたんです。だったら少しくらいバカみたいに楽しんでほしいって思ったからですよ」
「お前────」
いつも事あるごとに突っかかってくるけど本当は俺のことを考えての行動だったのか。なんだよ、こいつにも少しは良心ってもんが────。
「…な〜んて言うと思いましたか!?♡嫌がらせに決まってるじゃないですか!ばーーーーか!♡」
前言撤回。こいつはそんなこと考えるような女じゃない。その証拠に満面の笑みで俺に向かって中指を立てている。
「お前やっぱり死ね」
「一男さんが死んでください♡」
*
俺の身体は今も生死を彷徨っている。
それなのにこんな誕生日を過ごしていいのだろうか。
“少しくらいバカみたいに楽しんでほしいって思ったからですよ”
その言葉に本心が含まれていたのかは知る由もないが、あの瞬間ガラにもなく楽しんでいた自分が確かにいた。
あいつの思い通りになるなんて認めたくないけれど─────。
「…まあ、悪くはねえか」
「何がですか?♡」
「なんでもねえよ」
2022.01.24
「藤田一男に思い出を」