誕生日SS(2021.05〜2022.03)
「天川さん!!俺聞いてないんだけど!!」
図書室へ来るなり慌てた様子で彼は大きな声でそう言った。
「うるさいわよ。一体なんだっていうの」
「さ、さっき天川さんの友達に聞いたんだけど、天川さんって今日誕生日だったの!?」
「そうね」といつもの調子で返事をすると彼は「教えてよ…」と残念そうに呟く。
別に隠していたつもりはないわ。聞かれたら教えようと思っていたし。…というか神田くんだって教えてくれなかったじゃない。
そんなことを考えていると彼は何かを思いついたのか私に帰り支度をさせ、そのまま共に学校を後にした。
*
「ねえ、どこに行くつもり?」
「何も考えてない!」
「…はあ」
特に目的があるわけでもなく私たちは近くのショッピングモールを歩いていた。
おそらく彼は私宛の誕生日プレゼントをその場で用意したいのだろう。その証拠に彼はさっきから周りに視線を向けながら歩いている。
別にそこまでしなくていいのに、と口に出そうとしたがせっかくの好意を無下にするのは失礼だったから彼が納得できるまで見守ることにした。
────数時間後
その後お店を一周したけれどピンとくるものがなかったようで彼は少し落ち込んだ様子で隣を歩いていた。
このまま帰るにしてもしばらく引きずりそうだし、ここはひとつ仕掛けてみることにした。
「そういえば最近好きなお菓子の期間限定品が出たんだけどまだ食べてないのよね…。神田くん知ってる?」
「あのチョコレートだっけ。それだったら────。いや、待ってて!」
しばらくして彼は袋を片手にお店から戻ってきた。「ごめん、バレてたよね」と笑うと手に持ってた袋を私に差し出した。
「改めて誕生日おめでとう!」
「ふふ、ありがとう」
*
家に帰って中身を確認すると欲しかったチョコレートの他にもお菓子が入ってて思わず笑みが溢れた。
もらったチョコレートの箱を開けて一粒食べると口いっぱいに甘酸っぱいいちごの味が広がった。
───来年もお祝いしてくれたらいいな。
なんて淡い期待を胸に秘め、甘酸っぱいチョコレートの余韻に浸るのだった。
2022.01.18
「天川美咲にしてあげたい」