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中学生編





いつも通りの日々は
少しずつ変わり始めようとしていた。







「悔しい…」
「何よそんなに落ち込むことないじゃない」



夏休みを終え迎えた新学期。
またいつも通りの学校生活が始まると意気込んでいた矢先のこと。受験に向けて心機一転という理由で席替えが行われた。
俺としては天川さんの隣を失いたくないからしなくていいと思っていたのだが、そんな少数派の意見なんて通らず、お察しの通り結果は撃沈…。



「ここに来ればいつも隣に座ってるじゃない」
「それはそれ!全くの別物なんだよ!」



そう言うと彼女は興味がなさそうな返事をして再び先ほどから解いている問題集に取り掛かった。



「天川さんどこ受けるの?」
「真白女子」
「へえ〜ちょっと大変じゃない?」
「…まあ、それなりに」



真白女子高校は平均より少し高めの偏差値。
普段の様子を見る限り無理ではないけど少し厳しそうな気もするけど…。



「…笑わないで聞いてくれる?」



「絶対笑わない」と答えると彼女は鞄からある冊子を取り出した。



「これ体験入学で貰った文芸部の冊子なんだけどね、読んでたらすごく好きな話が載ってたの。それが今の2年の先輩が書いたものらしくて、直接会って話したら意気投合しちゃって…。

それでつい勢いで『絶対ここに入ります』って言っちゃったの。全くそんなつもりなかったんだけど!…でもその先輩に『私も待ってるね』って言われてなんか後戻りできなくなったっていうか…!」



彼女は冊子を顔の前で持つと表情を隠しながら「私らしくないよね」と呟く。



「天川さんはそれ言ったことに後悔は?」
「ない。もともと視野に入れてたところだったし。…ただ厳しいってのは事実」



彼女は半分諦めているような顔をした。
そんな顔しないでよ。
こんな話聞いたら力になりたいに決まってるじゃないか。
そうだ俺ができることといえば───!



「俺でよければ勉強教えるよ!」
「それはすごく助かるけど…あなたの方は大丈夫なの?」
「全然余裕!それに教えるのって自分にとってもメリットになるからね」
「じゃあ…お願いしようかしら」
「まかせて!一緒に頑張ろ!」



こうして俺と天川さんの放課後勉強会が始まったのである。







それから数ヵ月。
彼の教え方が上手いこともあって私の成績は順調に右肩上がりになっていた。
最初はギリギリを攻めるところにいたけど、今では合格圏内だろうと先生からも言われるくらいだ。



「結局神田くんはどこにするの?」
「北原第一。家から近いし、雰囲気も楽しそうだったからさ〜」



ここだけの話、彼は「自分らしくいれるところに行きたい」と言う理由でスカウトを全て断ったらしい。
前に期待に応えるのに疲れたと言っていたから正直その答えが聞けてほっとしている。



「ふふ、どうなるかと思ったけどよかったわ」
「あとは本番に向けて頑張るだけですよ!…あ、そこ違う」
「これじゃないの?」
「そこね俺もたまにやるんだよね。ちょっと貸して」
「!」



本当に最近、ふとした瞬間に思う。
私たち距離が近すぎるんじゃないかって。
考えすぎなだけかもしれない。
…けどこうして顔を近づけられるとなんだか恥ずかしくて距離を取りたくなる。
今までは何とも思わなかったのに───。



「───さん。天川さん!」
「…!ごめん、聞いてなかった」
「大丈夫?少し休憩しよっか」



彼は飲み物買ってくると言って席を外した。
…このままじゃいけない。
今は受験に集中しないといけないのに。
こんなことで乱されるなんて私らしくもないわ。



ぴと。



「!?」



冷たいものが突然頬に触れる。



「不意打ち成功〜!…なんてね。難しい顔してたからまた考え事かなって思ってさ」
「…そうね」



誰のせいだと思ってるのよ。
…もういっそ話を聞いてもらった方が解決するのかしら?
そもそも悩みの原因は彼なんだもの。
そう思った私はいつか彼がした男の子の話を真似て話すことにした。



「…これは友達の話なんだけどね。

最近ずっとある人のことで悩んでいるらしいの。その人とは友達同士なんだけど、今までなんてことなかった距離が急に恥ずかしくなったり、ちょっとしたことで心が乱されたりするらしいの。

こんなこと初めてだからどうすればいいのかわからなくて相談されたんだけど、私もそんな経験ないから答えられなくて困ってるの。

…ねえ、神田くんなら何かわかったりしない?」



そう尋ねると彼は顔を赤くして「ずるいよ」と言う。



「…自惚れちゃう」
「友達の話だって言ってるでしょ」
「うん。わかってる、わかってるんだけどさ」



彼はしばらく自問自答を繰り返し、そして何かを決めたのか私の方に顔を向ける。



「天川さん、手出して」
「…?」



言われるがままに手を出すと彼はゆっくりと手に触れ、そのまま指を絡め手を握った。



「な、なに」
「今どんな気持ち?」
「どんな…って、すごく恥ずかしい。逃げたいくらいに…」
「夏休み前の天川さんに同じことしてもそう思う?」
「…何が言いたいの?」



どくん、とお互いの心臓が跳ね上がる。
そして彼はぎゅっと握って言うのだ。



「お友達に伝えてあげて




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それが“好き”ってことだよ」








8話「いつも通りの日々」



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