第3話

オリハルコンとは、天然に採取される鉱物の中で、最も貴重とされているもののひとつである。

鉱物として群生しているものもあれば、分子として別の物質の中に潜んでいるものもあり、その全貌は未だによくわかっていない。

現時点ではその強靭性から重宝されており、皇族専用の武器や国家レベルの防衛などに使用されている。

故に古代から、戦を制するにはいかに多くのオリハルコン、またはその分子を集められるかにかかっていた。

現在、世界でオリハルコンを最も多く有している国は帝国で、調達場所は非公開となっており、上層部でもほんの一部の者しか知らないという。

しかし「オリハルコンの眼」の伝説ににあるような、神秘の力とやらは認められていない。

帝国人にとってのオリハルコンは魔法の道具である以前に、実用的な道具でしかなかったのだ。







帝都に向かう船の甲板に、一人の男がいた。
長身の体を船から乗り出すようにして海面を見下ろしたり、空を仰いだりしてなかなか落ち着きがない。

ようやく一行の目に入ってきたのは、帝国一帯を囲う城壁だった。

はるか昔、祖先が外敵から身を守る為に築いたそれは、大規模な戦争の度に子孫を守り続けてきた。

数年前に改築作業の一環として、オリハルコンをコーティングされて一層強固さを増したそれは、まさに無敵の盾となったのである。


「Blue sky…Emerald sea…Wild wall・・・Metropolis,it's beautifuuuuuuul!!!」


男は突然異国の言葉で感嘆の声を上げた。背中に背負った大きなワニが瞬きする。

そんな男の様子を見ても、乗組員達は慌てた様子もなく、好きなようにさせていた。

ワニを背負う姿も、変わった言語も、航海の初めの日は度肝を抜いたが、慣れてしまえばどうということはなかった。



男の名はジェローム・ガビアル・クック。

若くして博士号を取得し、考古学の専門家として名を馳せる、本人曰く「ちょっとした有名人」である。

今回帝国の特務科学部門への参加を要請され、はるばる海を越えて帝都を目指してきた。

目前に迫り来る巨大な壁を、ジェロームは恐れもせずに見つめ続けた。
その様子は、さながら子供のようにも見える。


「面白そうなところだ。なあカレン。」


背中の相棒を一撫でし、彼は挑戦的な笑みを浮かべた。

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