第1話
それは覇王――いや古代から現代にかけて、帝国の人々に語られている伝説の魔物の名だった。
レインボードラゴンはその名の通り、種族で分類すれば一般的な竜に過ぎない。
だが彼らは竜の変種として生を受けたため、その遺伝子はある一族にのみ受け継がれていて、非常に数の少ない魔物だった。
巨大な二対の翼と、純白の体。
そして胴に鏤められた神秘の力を持つ、七つの宝玉。
そして、全てを掻き消す光の力。
闇に属する帝国と、光に属するレインボードラゴン――二つの勢力はいつの時代も相容れることがなかった。
ある時は闇が光を飲み込み、またある時は光が闇を焼き。
そんな不毛な争いに終止符を打ったのは、レインボードラゴンの方だった。
数少ない一族と一部の魔物達を引き連れて西方に逃れた彼らは、そこに都市を立てて住み着いた。
その名をレインボールインという。
こうして二百年の時が流れた。
状況が再び動いたのは今から5年前のことだった。
強大な戦力と科学力を保有した帝国が、レインボールインに攻め込んだのだ。
その時既に、残っていたレインボードラゴンはたったの二匹しかいなかった。
流行していた伝染病で疲弊していたレインボールインはいとも容易く帝国の手に堕ち、統治者であったレインボードラゴン達は帝国軍によって討伐されたとされていた――表向きには。
実際殺されたのは王であったレインボードラゴン一匹で、残りの一匹は秘密裏に帝国が捕獲し、現在まで捕虜として幽閉していた。
その伝説の竜が、ここにいるというのか。
「ここから先はお前一人で行ってくるがいい。「案内役」を先に送っておいたから迷いはしないだろう。」
それだけ言うと、世界王は踵を返した。
「ひとつお聞きしたいことが。」
覇王は世界王を呼び止める。
「なんだ。」
世界王はあらかじめ呼び止められることを予期していたような様子で、振り返った。
当然だろう。
父とて、内密に自分を兵器と会わせるこの行為が、どんな波紋を呼ぶのかわからないわけではあるまい。
「兄上にはなんと言ってあるのです。
そもそもレインボードラゴンは兄上の戦利品でしょう。」
世界王は全くの無表情で、何を考えているのか表情からは伺うことはできない。
しばらく親子は見つめあったが、やがて世界王の方から目を逸らした。
「あれに戦は向かん。いざと言う時はお前に出てもらおうことになる。」
「…そうですね。」
汚れ仕事は昔から自分の役目なのだ。
聞かなくともわかりきっているはずだったのに。
やがて覇王一人を残して、重々しい音をたてて扉が閉じられた。
レインボードラゴンはその名の通り、種族で分類すれば一般的な竜に過ぎない。
だが彼らは竜の変種として生を受けたため、その遺伝子はある一族にのみ受け継がれていて、非常に数の少ない魔物だった。
巨大な二対の翼と、純白の体。
そして胴に鏤められた神秘の力を持つ、七つの宝玉。
そして、全てを掻き消す光の力。
闇に属する帝国と、光に属するレインボードラゴン――二つの勢力はいつの時代も相容れることがなかった。
ある時は闇が光を飲み込み、またある時は光が闇を焼き。
そんな不毛な争いに終止符を打ったのは、レインボードラゴンの方だった。
数少ない一族と一部の魔物達を引き連れて西方に逃れた彼らは、そこに都市を立てて住み着いた。
その名をレインボールインという。
こうして二百年の時が流れた。
状況が再び動いたのは今から5年前のことだった。
強大な戦力と科学力を保有した帝国が、レインボールインに攻め込んだのだ。
その時既に、残っていたレインボードラゴンはたったの二匹しかいなかった。
流行していた伝染病で疲弊していたレインボールインはいとも容易く帝国の手に堕ち、統治者であったレインボードラゴン達は帝国軍によって討伐されたとされていた――表向きには。
実際殺されたのは王であったレインボードラゴン一匹で、残りの一匹は秘密裏に帝国が捕獲し、現在まで捕虜として幽閉していた。
その伝説の竜が、ここにいるというのか。
「ここから先はお前一人で行ってくるがいい。「案内役」を先に送っておいたから迷いはしないだろう。」
それだけ言うと、世界王は踵を返した。
「ひとつお聞きしたいことが。」
覇王は世界王を呼び止める。
「なんだ。」
世界王はあらかじめ呼び止められることを予期していたような様子で、振り返った。
当然だろう。
父とて、内密に自分を兵器と会わせるこの行為が、どんな波紋を呼ぶのかわからないわけではあるまい。
「兄上にはなんと言ってあるのです。
そもそもレインボードラゴンは兄上の戦利品でしょう。」
世界王は全くの無表情で、何を考えているのか表情からは伺うことはできない。
しばらく親子は見つめあったが、やがて世界王の方から目を逸らした。
「あれに戦は向かん。いざと言う時はお前に出てもらおうことになる。」
「…そうですね。」
汚れ仕事は昔から自分の役目なのだ。
聞かなくともわかりきっているはずだったのに。
やがて覇王一人を残して、重々しい音をたてて扉が閉じられた。