第5話

どんな大海でも、始まりは小さな一滴に過ぎない。

現在世界の覇権を握っている帝国も、元は小さな集落であったという。

やがて集落は人口を増やしながら巨大化していき、王国となり、ついには帝国として君臨した。

他と一線を駕した要因の一つは、おそらく優れた指導者がいたからだろう。
本来帝国とは、王国よりも君主の権限が強い。

独裁せず、適度に周囲の意見を取り入れながら最終的な決定は皇帝が行う、理想的な国家のはずだった。



発端は、現皇帝より数世代前に遡る。

当時の皇帝が若くして夭折し、跡継ぎとして彼の従兄弟にあたる近隣諸国の幼い王を、皇帝として向かい入れた。

当初王国と帝国の君主を兼任していたが――初めから帝国側としては、これが目的だったのだろう――やがてその王国を帝国に合併させ、領土にしてしまった。

問題はここから先で、外国から連れてこられた王は、帝国に馴染めず、極端に人と会話することを恐れた。

年と共にその傾向は強くなり、ついには議会にもろくに出席しないようになり、政治を放棄してしまった。

残された政治家達は、自分達の判断のみで国を動かしていくことになったのである。


この傾向は皇帝が代替わりしても変わらず持ち越され、大きな権力を得た彼らは、徐々に暴走し始め、皇帝は彼らの隠れ蓑と化してしまった。

もちろん皇帝の皆が皆、黙って引き下がったわけではない。
議会を再び掌握しようとする者、彼らの不当な権限を取り上げようとする者など、努力した皇帝もいた。

しかしそうした皇帝達はスキャンダルによって退任、あるいは突然死し、悉く志半ばに倒れていった。

誰が裏で糸を引いたかは調べるまでもなかった。


こうしてここ数百年、皇帝は傀儡として存在
するようになっていた。

無論、現皇帝とて、例外ではない。


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