第1話
爽やかな夜風が、火照った頬に心地よい。
十代は全財産の詰まった小さなバックを肩に担ぎ直すと、そっと後ろを振り返った。
そこには彼が長年過ごしてきたデュエルアカデミアがある。
僅かに聞こえてくる、卒業パーティーで賑わう学友達の声は、十代の胸になんとも言えない寂しさを去来させた。
別れも言わずに旅立つことにほんの少しの後悔を抱いたが、頭を振って思い直す。
そんなことをしてなんになると言うのか。
『未練たらたらじゃないか。』
恋しそうに母校を眺める十代の脳内に、艶やかな声が響く。彼と体を共有する精霊、ユベルのものだった。
『ホントに何も言わずにいくのかい?』
「大丈夫さ。翔達ならわかってくれる。」
らしくなく心配気なユベルに、若干のおかしさを感じながら返すと、馬鹿、と軽く頭を小突かれた。
『ボクが言ってるのはアイツ、ヨハンのことだよ。ホントに全部隠していくの?』
ユベルのその言葉は十代を強張らせた。 遠くで揺らぐ灯りと賑わい。
あの中に彼はいる。
―十代にとって、誰よりも大切な存在が。
何度もこの想いを告げようと思った。
いっそのこと「自分達の繋がり」を話してしまえば、どんな形であれ、ヨハンは自分を特別視してくれるだろう。
しかしヨハンが無邪気に笑う度、真実を告げてしまうことで、彼の生き方を変えてしまうかもしれない可能性を恐れた。
現に「それ」を知った十代は、変わってしまった。
ならばこのままでいい。
自分とヨハンは、デュエルアカデミアという小さな箱庭で偶然出会い、偶然意気投合し、偶然同じ戦いに身を投じた。
それでいいではないか。
十代は踵を返すと、モーターボートに乗り込んだ。
スイッチを入れれば、けたたましい音と共にエンジンが回り出す。
ユベルは気でも遣ったのか、もう問いかけてはこなかった。
「――さよなら、ヨハン」
十代の最後の呟きは、波を打つ機械音にかき消された。
十代は全財産の詰まった小さなバックを肩に担ぎ直すと、そっと後ろを振り返った。
そこには彼が長年過ごしてきたデュエルアカデミアがある。
僅かに聞こえてくる、卒業パーティーで賑わう学友達の声は、十代の胸になんとも言えない寂しさを去来させた。
別れも言わずに旅立つことにほんの少しの後悔を抱いたが、頭を振って思い直す。
そんなことをしてなんになると言うのか。
『未練たらたらじゃないか。』
恋しそうに母校を眺める十代の脳内に、艶やかな声が響く。彼と体を共有する精霊、ユベルのものだった。
『ホントに何も言わずにいくのかい?』
「大丈夫さ。翔達ならわかってくれる。」
らしくなく心配気なユベルに、若干のおかしさを感じながら返すと、馬鹿、と軽く頭を小突かれた。
『ボクが言ってるのはアイツ、ヨハンのことだよ。ホントに全部隠していくの?』
ユベルのその言葉は十代を強張らせた。 遠くで揺らぐ灯りと賑わい。
あの中に彼はいる。
―十代にとって、誰よりも大切な存在が。
何度もこの想いを告げようと思った。
いっそのこと「自分達の繋がり」を話してしまえば、どんな形であれ、ヨハンは自分を特別視してくれるだろう。
しかしヨハンが無邪気に笑う度、真実を告げてしまうことで、彼の生き方を変えてしまうかもしれない可能性を恐れた。
現に「それ」を知った十代は、変わってしまった。
ならばこのままでいい。
自分とヨハンは、デュエルアカデミアという小さな箱庭で偶然出会い、偶然意気投合し、偶然同じ戦いに身を投じた。
それでいいではないか。
十代は踵を返すと、モーターボートに乗り込んだ。
スイッチを入れれば、けたたましい音と共にエンジンが回り出す。
ユベルは気でも遣ったのか、もう問いかけてはこなかった。
「――さよなら、ヨハン」
十代の最後の呟きは、波を打つ機械音にかき消された。
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