戦!セバ ユゼB


素直になるって難しい、と思う。
そりゃあオレだって仕事でミスして上司や同僚に謝ったりするなら素直にもなれるさ。
けれどそれとは全く違うものだから。


「…。」
現在、夜中のデーデマン家を一人で見回り中。
本当は二人一組が原則だが…多分そういう決まりになった元凶であるユーゼフ様がいつの間にか後ろを歩いていたから心配はないだろう(という理由で見回りのはずのAに逃げられた。)
オレだって逃げたい…。
っていうか、夜中に人ん家で何してんだよこの人も。

「B君。」
「…。」
さっきから、何度となく名前を呼ばれる。
けれどオレは返事もせず黙々と屋敷を見回り続けている。
「せっかく二人で歩いているのに、会話もないなんて退屈じゃないかい?」
…そう思うなら早く自分の屋敷に戻って寝て下さいよ。
「おや、つれない子だねえ。君の機嫌が直ったら退散するよ?」

「…何、ナチュラルに人の心読んでるんですか?」
流石に足を止め、振り返る。
そこには待ってました、と言わんばかりの笑顔を浮かべたユーゼフ様。

「まあまあ。…ね、だからそろそろ機嫌、直して?」
「…知りません!」
「全く、君は意地っ張りだねえ。」

くすくすと楽しそうに笑うユーゼフ様に、顔が熱くなってくる。
それを隠すようにオレはまた歩き出した。

…だって別に機嫌が悪い訳じゃない。
そんなわけ、ない。
ただ昼間、ユーゼフ様とセバスチャンが話していたのを見ただけだぞ?
…普段より近距離で、楽しそうな雰囲気だったけれど。

「やきもち、やいてくれたんだろう?」
「…知りません。」
「また心、読むよ?」
「…?!」

その言葉に驚いて思わず立ち止まった。
後ろからまた聞こえてくる楽しそうな笑い声。
い、意地悪いなこの人。
…けれど、実際オレが相当な意地っ張りでいるせいなのだろうけど。
だってそんなすぐに素直になんてなれない訳で。

本当に心が読めるのかは分からないけどこのままじゃ堂々巡りだ。
オレは覚悟を決めて、ユーゼフ様を見た。
「…ユーゼフ様は、どうして。」
ん?と優しい表情を浮かべたユーゼフ様がオレの言葉を促す。

「あなたほどの人が…なぜ、オレを気にかけてくれるんですか?」
ずっと思ってた。
だって不思議だろう。
オレなんてただの一般人で、セバスチャンやデイビッドさんのように秀でたところもない。
釣り合うはずがない、と分かっていたのに。

しかしオレの真剣な問い掛けは、ユーゼフ様に盛大に笑われる羽目になった。
「え、な何で笑うんですか?!」
「あはは、ごめん。あんまり可愛くてついね。」
いやいや、笑う理由になってねえし答えにもなってねえしそれ。
意味が分からず、むっと睨みつけたらやっと笑いは収まった。

「あのね。」
さっきの笑いとは違う穏やかな笑顔でユーゼフ様は言った。
「理由を言葉で表すのは難しいけれど…君の言う『僕ほどの人物』を夢中にさせる君ってすごいと思うよ?」

たった一言、で。
いとも簡単にオレの不安を丸ごと吹き飛ばす。
こんなオレを、選んでくれる。

「機嫌、直った?」
「…知りませんっ。」
やっぱり素直になれないオレに、それでもユーゼフ様は満足そうに笑った。
「ふふ、それじゃあ退散しようかな。」

まだ、行かないで。
オレは反射的に思った。

「B君?」
無意識にユーゼフ様の上着をしっかりと掴んでいた。
ユーゼフ様は優しい笑顔でオレを見つめる。

素直になんて、簡単になれやしないけど。
今のオレの精一杯。
恥ずかしさに俯きながらも、今の気持ちを伝えたくて呟くのだった。


『もう少しだけ、一緒にいて下さい。』
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