戦!セバ ユゼB


こほ、と乾いた咳を吐き出した。
自分的には特に気にするものではなかったのだが休憩室で一緒にお茶を飲んでいたB君が驚いたように僕を見た。
「風邪ですか?」
「いや、そんなんじゃないと思うよ。」
確かに今日は朝から体がだるい気はしたけど。
それだけだから。

珍しく心配そうな表情を浮かべるB君に何だか申し訳なくて、笑顔で答える。
けれど彼は表情を和らげてはくれなくて、それどころかさっきより深刻になってしまっている。
「B君?」
向かいにいたB君がテーブルを回り僕の横へやって来て、ぴたりと額に手を当てた。
冷たくて気持ち良い。
それよりこんな手が冷えてるなんて寒いのかな、などとのんきに考えていたけれど。

「…やっぱりユーゼフ様、すごく熱いですよ。」
「ん?」
「だから熱があるって言ってるんです!」

熱…熱、ねえ。
じゃあB君の手が冷たいんじゃなく、僕の体が熱いのか。
そう自覚した途端体がとても重く感じた。
ああ、ずっと熱なんて出していなかったからこんな感覚忘れていたよ。

「屋敷まで戻れますか?」
B君が心配そうに僕の顔を窺った。
安心させたくて笑ってみたけど肝心の体はどうも大丈夫じゃないらしい。
何だか頭もずきずきしてきた。
「うーん。だるくて動きたくないなあ。」
「そんな事言ってる場合ですか。…あ、ロベルトさん達を呼びましょうか?」
確かにあの二人が来てくれたら簡単に屋敷に戻れるだろう。
B君は二人の名前を呼んだ…けれど一向に現れず不思議そうに僕を見やった。
ぼうっと重たい頭を回転させて、思い当たる。
「そういえば今日彼らを使いに出したんだった。」
ここから何千キロと離れた場所へやっては流石の二人も呼ばれる名前に反応など出来ないだろう。

「…仕方ないですね。屋敷に戻るよりは近いんで、オレの部屋へ行きましょう。」
彼は自分の部屋へ普段はめったに入れてなどくれない。
自分から招き入れてくれるなんてそれこそ初めてかもしれない。
僕がそこまで具合悪そうにしているせいかもしれないけれど、いつもと違う反応はとても新鮮だった。
「…B君。これはちょっと暑いな。」
部屋へ着くなり問答無用でベッドに寝かされ、上にありったけとも思える量の毛布がかけられた。
流石に暑いし、重い。
「熱がある時は汗をかくのが一番です。」
「だからってねえ。」
「我慢して下さい。オレだって病人の面倒なんて初めてでどうしたら良いのか良く分からないんですから。」

そっけない言葉の割には君が僕の為に一生懸命なのが見て取れるから、嬉しくなる。
「じゃあ僕が初めての男かな?」
「…軽口叩いてないで寝て下さいよ。」
普段ならもっと可愛く、必死に反論してくるんだけど。
これは一応僕に気を使ってくれてるのかな。
ちょっと困ったような表情が新鮮で、なんて可愛い。

「あ、そうだ。病気の時はお粥かな。デイビッドさんに頼んで…。」
ふいにそう呟いてベッドから離れようとしたB君の腕をとっさに掴んだ。
ただ、行かないでほしいと思った。
でもその行動はたいそうB君には意外だったようで。
「ユーゼフ様?」
「…お粥は良いから。もう少し、ここにいてくれないかな。」
熱に浮かされているせいか、するりと本音が漏れる。

一瞬驚いたようだったけれど、B君は優しく笑ってベッド脇に腰掛けた。
「…良いですよ。病気の時って一人じゃ不安ですもんね。他には何かありますか?」
「…手を。握っていてくれる?」
B君の優しさにつけ込むように、いつもなら必ず断られるであろう事を言ってみる。
「良いですよ。」
でも君はそっと手を重ねてくれるから。

…頭はずきずきとして体の節々も痛いのに、触れる指先から痛みが和らぐような気がした。

こんな状態なのに、気分が良いと感じる。
ああ、もしかしてこれは夢なのだろうか。



子供のように頭を撫でられてひどく安心してしまう。
と同時に瞼が重くなるのを感じた。
…ああ、もったいない。
せっかく君が優しいのに、こんなに近くにいてくれるのに。
眠りたくなどない。
「B君…。」
「大丈夫ですよ。目が覚めるまでここにいますから。」
穏やかに微笑む彼を見てそっと瞳を閉じる。

これは幸せな夢かもしれない。
けれど、いつもと違う君が見れたからたとえ夢でも構わない。


この幸せが続くかどうかは、次に目を覚ませば分かるのだろうから。
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