戦!セバ ユゼセバ


寒い日が続き、一気に暖かくなったせいだろうか。
旦那様とヘイヂの行動が目に見えて活発だ。
いちいち止めに入るのにも面倒になってしまい、二人の暴れる音を聞きながら廊下を歩く。

…全く、どいつもこいつも春の陽気とやらにあてられているようだ。
デイビッドや三人の使用人たちでさえ小さな失敗をしている。
まあ俺に迷惑がかからない程度なので、問題はそれほどないんだが。
…ふと、春の陽気になど惑わされないだろう人物が頭に浮かんだ。
あの人ならいきなり氷河期に突入しようと一切の隙さえ見せないだろうけど。

「やあ、セバスチャン。」
突然、背後から声がした。
「…ユーゼフ様。どこからともなく現れるのはいい加減止めてくれませんか。」
たった今まで考えていた人物の出現に少し焦ったが、それを悟られまいと早口でまくしたてる。
「それか、せめて瘴気なり気配なり放出して歩いて下さい。」
言うとユーゼフ様はおや、と珍しげに驚いて見せた。
「君も、この陽気で気が緩んでいるのかい?」
「…なぜですか。」
「だって普段の君なら、いくら気配を殺して近づいても気づくだろう?」
「それは…!」

ああ、しまった。
あなたのことを考えていたからです、なんて正直に言ったらつけあがるだけだ。
かと言って、気が緩んでいると思われるのも悔しい。
くすくすと楽しそうに笑うユーゼフ様に、しかし上手い言い訳は浮かばず。
まともに顔を見ることは出来なかった。
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