戦!セバ デビB
厨房で食事の準備をしていてふと微かに水の音が聞こえた。
窓を開けて確認してみると、クーラーに慣れた体には蒸し暑い空気が流れ込んできたけれど。
でもやっぱり水の音が聞こえた。
「涼しげな音だなー。」
ちょうど準備も一段落したし、行ってみようかと思い立った。
サアアァァ…。
水の音の正体はすぐに発見できた。
「B君じゃないか。」
B君がホースで庭に水をまいていたのだ。
声を掛けようとした時、B君の前に虹が出来ているのが見えた。
水と虹がきらきら光っていて、B君の姿がすごく幻想的に見える。
「綺麗だなー…。」
しばらく声を掛けるのも忘れて魅入っていたが。
バシャアッ!
「うわっ?!」
結果として隠れてB君を見ていたのが悪かったのか、ホースの水が勢い良く顔面にかかった。
「え?!デイビッドさん?!」
B君は慌てて俺に駆けよってきてくれる。
「すいません、気付かなくて…。今タオル持ってきますね!」
ぽたぽたと、髪の毛から水が滴る。
あー、結構濡れたなー。
でも、申し訳なさそうにしてたB君には悪いが、これはこれで涼しくて良いかも。
そんな事を考えている間にB君が戻ってきた。
「本当にすいませんでした。大丈夫ですか?」
「ああ、元はと言えば俺が声も掛けなかったのが悪いんだから気にしなくて良いぞう?」
と、俺は笑いながら差し出されたふかふかなタオルを肩に掛けた。
「あ、ちゃんと拭かないと駄目ですよデイビッドさん。」
まるで子供をたしなめるようにそう言って、B君は背伸びをした。
ふわっと頭にタオルが乗せられて優しく水滴が拭き取られていく。
「風邪ひきますよ?」
目の前で、B君が笑う。
その笑顔はとても綺麗だった。
…そういえば俺、B君好みだったんだよな。
最近はお向かいサンの瘴気から守ってやらないと、って気持ちが大きくて忘れてたけど。
それにずっとB君は俺の背後に抱きついてたから、こうやってきちんと顔を見ることも殆どなかった。
すごく綺麗だ。
すごく可愛い。
無性に抱きしめたい衝動に駆られた、その時。
「Bー…。」
屋敷の中から、A君の声が聞こえた。
B君を探しているのだろう。
「ん?…Aの奴、何だろう。」
屋敷に視線をやり、小さくため息。
「すいません、オレちょっと行きますんで。後は自分で、ちゃんと拭いて下さいよ!」
そう言い残してB君は屋敷に走って行った。
俺は伸ばしかけて、行き場を失った自分の手を見た。
…あのままだったら確実に抱きしめていた。
抱きしめ、たかった。
「…それにしても、暑いなー。」
せっかく水を被って涼しくなったはずなのに。
上がっていく体温はきっと、夏の暑さのせいだけではないのだろう。