戦!セバ ユゼB
欲しいモノは昔から、何でも手に入った。
…それは人の心すら例外でなく。
「B君。」
「ユ、ユーゼフ様っ…こんにちは。」
だからちょっと面白くなかったんだ。
向かいの屋敷に勤めるB君は、僕を見るともれなく怯える。
まあ元は、過去に調子に乗って脅かしてしまったせいなのだけど、それにしたって。
「好きだよ?」
笑顔でそう言ってやれば誰だって、応えてくれたのに。
目の前の彼だけは相変わらず僅かに震えながら。
「そう、ですか…。」
と、いつだって素っ気ない。
面白くない。
…こんな反応をいつまでするのかな。
何だか悔しくなって絶対応えさせてやろうと。
それはもう意地のようなものかもしれない。
だから、毎日足を運んではB君に愛の言葉を紡いだ。
しかしいつまで経っても応えてくれる気配はなくて、ある日たまらず尋ねた。
「君は僕の事、嫌い?」
適度な距離を保ちながら彼は首を傾げる。
「は?いえ、別に嫌いでは…。」
「だったらなぜ僕の言葉を信じてくれないんだい?」
嫌われていないのは分かっている。
以前は僕を見ると一目散に逃げていたけど、最近はこうして距離さえ取っていればごく普通に接してくれるようになったから。
少しずつでも好意を持たれていると。
それは実感出来るのだけど、僕の求めるものとは少し違うから。
「…信じるも、信じないも。」
B君はそう呟いて、言いずらそうに口をつぐんだ。
僕が構わない、と続きを促すとやっと再び口を開いて。
「ユーゼフ様は、言葉だけです。心がこもってないから本気になんか取れません。」
…言われて、初めて自覚した。
おかしな話だけど、今まで誰もそんな事を言っては来なかったから気づきもしなかった。
…確かに、心からの言葉なんて発したことがないかもしれない、と今更ながらに思う。
B君は怯えながらも、その真っ直ぐな瞳できちんと僕を見てくれていたんだね。
…ああ。
ああ、やっと気付いた。
「好きだよ。」
「?!」
無意識にでた自分の言葉に驚いたが、それよりも顔をみるみる紅く染めていくB君に驚いてしまった。
「し、失礼します!」
逃げるように去っていくB君が見えなくなってから、僕は小さく笑った。
覚悟しておいで、B君。
この気持ちに気付かせたのは君なんだ。
これからは本当の愛の言葉を紡ぎに行くから。
欲しいモノは何でも手に入った。
けれど今欲しいモノは、ただ一人の心だけ。