幕恋 土鈴

『知っているか鈴花。左手の薬指はな、運命の相手と繋がっているんだ。』
幼いころ父上が嬉しそうに言っていた。
かざした左手の先には一本の刀。

『俺の運命の相手はまさに刀だな!剣士として最高だ。』
…せめて子供の前では、嘘でも母上で例えて欲しかった、なんて呆れた覚えがある。
けれどその後、思いのほか真剣な顔で私の手を握って言うから。

『信じていれば、鈴花もいつかきっと出会えるさ、赤いえにしで結ばれた相手と。』
だから信じてみたく、なった。
そのえにしを。


この薬指の先に誰かがいるのなら。
共に刀を振るいたい。
そういう人であってほしい。

共に剣の道を歩み、信じ合い…いつまでもどこまでも。
同じ道を生きていきたい、と。

それは信じるというより、すでに願望に近かったのかもしれないけれど。「すごいなあ、父上。」
私は左手をかざす。
その先にいる人が僅かに首を傾げて問いかけてきた。
「何がすごいんだ?」
だって、ずっとずっと願っていたのだ。
信じて、いたのだ。

そして本当に出会えた。
望んでいたとおり、共に刀を振るい戦い続けてきた。
…もうすぐこの戦いは終わりを迎えるだろうけど、いつまでもどこまでも隣にいたいと思えるくらい、大切な人。

私は笑って答えた。
「私の隣に土方さんがいてくれる事が、ですよ。」

運命って言葉で片付けられるものかも分からないけれど。
これは確信。
私の赤いえにしは、土方さんと繋がっていたんだって。
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