その他
「ディーンはおかしいよ!」
「この俺のどこがおかしいっていうんだ!」
兄と二人だけの旅にもずいぶん慣れたし、二人きりという状況が普段は嬉しく感じるくらいだ。
けれど困るとしたら、今まさにこういうとき。
一度ケンカが始まればしばらく収まることはない。
特に今回はお互いに譲れないと、いつも以上にヒートアップした口げんかになっていた。
「まさにそういうところだよ、ちょっとはおかしいって自覚してみたら?」
「サム、お前兄貴に向かってよくそんなことが言えたな。」
「だってディーンが全然、分かってくれないからじゃないか…!」
「俺は分かってるさ。お前のことはお前以上に分かってるつもりだ。」
だってお前を育ててきたのはこの俺だからな、とディーンは言う。
確かに一番近くで、守り育ててくれたのはディーンだ。
僕より年上とはいえ、ディーンだって幼かったのにわがままで子供だった僕の面倒を見るのは大変だっただろう、と思う。
でも、だからこそ。
「じゃあ今の僕の気持ちも分かってよ、僕は守られるだけじゃ嫌なんだ。」
けんかの原因。
それは兄貴が僕を大切にしすぎているってこと。
いつまでも子供扱いして、過保護で、何かあればすぐに僕をかばって傷つく。
僕はもうかばわれるばかりの子供じゃないし僕だってディーンを守りたい。
「弟を守るのは兄の役目だ。これは譲れないな。」
「ディーン!」
けれどディーンは、僕の願いをいつも同じ言葉で否定する。
おかしいよ、おかしいよ。
どうしてディーンばっかり。
「…どうして僕を優先するんだよ。もっと自分のこと大事にしろよ!」
ディーンはそうだ、いつもそうなんだ。
自分のことは後回しで、僕を守って傷ついても誇らしげに笑うんだ。
子供のときからずっとそう。
家族のことより、自分の幸せを考えてほしいって思う僕は間違ってないだろ?
ああもう、気が高ぶりすぎて胸のあたりがごちゃごちゃして何だか涙が出そうだ。
「…サム、俺はな。」
今まで大きな声で言い合っていたのに、ディーンは突然落ち着いた口調で真面目な顔で僕を見た。
「自分の命よりも大事だって思えるものと出会えて、幸せなんだ。ずっとそう思ってるんだ。」
…目を、逸らしたいのに逸らせない。
反論したいのに声が出ない。
「俺の幸せはお前が幸せであることなんだ。だからサムが幸せであるように全てのものから守るんだよ。」
そんなの、ディーンの勝手な言い分だ。
なのに本当に嬉しそうに笑うから。
深すぎる、愛情を感じてしまったから。
おかしいよという言葉はもう出てこなかった。
「…ディーンが傷ついたら、僕は幸せになれないよ。」
分かって。
僕だってディーンのことがすごくすごく大切なんだ。
僕の幸せにはディーンがいないと駄目なんだよ。
「ありがとな、サミー。」
そうやって笑いながら、きっとまた僕を守るんだろう。
こみ上げてくるものを隠すように、自分より小さい兄の肩に顔をうずめた。