その他
明日、俺は未来へ帰る。
だけどどうしても迷いが捨てきれなかった。
「はあ…。」
俺は眠れなくて外へ出た。
今日は月が綺麗だな、なんてどうでもいいことを思う。
「何をしている。」
「と、父さん…!」
さっきまでいなかったはずの人が目の前に現れて俺は少なからず動揺してしまった。
自分の頭の中の大半を占めている人。
「貴様の気がずいぶん不安定になっていたからな。」
…わざわざ様子を見にきてくれたんだろうか。
聞いても素直に頷いてはくれないだろうから、それは飲み込んでおく。
けれど父さんの姿を見て、今まで考えていた思いが溢れてしまった。
「俺…帰りたくないんです。ここに、いたい…。」
「…何を。」
「だってここには願っていた全てがある!」
美しい街並み。
人々の笑顔。
たくさんの仲間。
尊敬する師。
そして何より憧れていた父。
…せっかく会えたのに。
離れたくない、なんて言ったってこの人には通じないかもしれないけれど。
「ふん…。どうやら地球人の血が入ると甘ったれになるらしい。」
しばらくの間の後、父さんは言った。
俺はてっきり情けないことを言ったと罵倒されるか殴られるかする覚悟でいたからその言葉は意外だった。
顔を見たかったけれど、月が隠れてしまって表情が読めない。
「いいか、俺は誇り高きサイヤ人の王子だ。」
「はい…?」
突然何を、と思ったがとりあえず黙って話を聞く。
「貴様にもその血が流れているんだ。サイヤ人は戦闘民族、敵と戦うことから逃げるなど言語道断。」
――強く厳しいこの人を理解したつもりだったけど。
それは単なる思い込みだ。
特に戦いにおける父さんのプライドは俺の考えが及ばないくらいに高い。
「…誇り高いサイヤ人が、機械野郎なんかに負けたままなんて悔しくないのかトランクス。」
――ああ俺はこの優しい世界に甘えていたんだ。
ここに望む全てがあっても俺の居場所はここじゃない。
俺はみんなの思いを背負って生きてたはずだ。
みんなの、そしてサイヤ人の誇りを汚されたままの父さんの無念を思う。
…帰ろう、と。
簡単に答えが出た。
「そもそも、タイムマシンとやらがあればいつでも来られるんだろ。」
「え、また来てもいいんですか?!」
びっくりして聞き返す。
ちょうど雲が晴れて月の光が俺たちを照らす。
父さんは笑っていた。
「そんなもの、決めるのは俺じゃない。」
俺は自分も笑っていることに気づく。
「なら、また来ます。人造人間を倒してセルを倒して…あなたに会いに。」
「勝手にしろ。」
だからそれまで。
少しの間だけ、さよならをしよう。