その他


「僕も連れて行って下さい、トランクスさん。」
もうすぐ未来へ帰るその人に僕は言った。
出会って短い時間しか一緒にはいられなかったけど、今の暮らしの全てを捨ててもいいと思えるくらいトランクスさんを好きになってしまっていたから。
「悟飯さん…。ありがとうございます。」
トランクスさんは本当に嬉しそうに、綺麗な笑顔を浮かべた。
「…二人乗りのタイムマシンが完成したら、あなたを迎えに来ますから。」
そう、約束してくれたけれど僕は彼がもう戻って来てはくれないことを理解してしまった。

それから月日は流れる。
「…あの、悟飯さん?俺に何かついてますか?」
隣には、あの人と同じくらいに成長したトランクスが困った顔をしてこちらを見ている。
彼が望むので週に一度、勉強を見ているのだ。
おかげで忘れたくても忘れられない。
日に日にあの人に似てくる彼を見るのは、嬉しいというよりは辛かった。
「大丈夫ですか?」
昔、幼かった自分がされていたようにトランクスが僕の顔をのぞき込む。
ああもうダメかもしれない。

「…僕はね、ずっと未来から来た君が好きだったんだよ。」
本人にはついに言えなかった言葉が口をつく。
当然だけどトランクスは目を丸くしている。
「でもあの人も君も、僕を一番にはしてくれない。」
分かっていた。
トランクスさんが好きなのは未来の僕であって、幼い自分ではなかったと。
そして目の前のトランクスだって、僕ではなくずっと一緒にいる悟天を選んでしまうのだろう。
「悟飯さん…。」
こんなことを言って、何て返されるかは想像出来る。
でも言わずにはいられなかった。
僕は目を閉じる。

「…俺の一番は、悟飯さんですよ。」
けれど予想外の言葉に思わず目を開けて隣を見た。
「え…?」
「ずっとずっと、あなたが好きなのに。」
彼は顔を真っ赤にしながらも瞳はそらさず言った。
「でも、悟天は?」
「悟天はただの幼なじみですよ…!」
「だけどそんな素振り…。」
間の抜けた台詞しか出てこない。
それほど自分は動揺していた。
「俺は色々してました!悟飯さんが見てくれてなかっただけです。」

…少しだけ冷静になった頭を巡らす。
考えてみれば頭の良いトランクスに家庭教師の必要はなかったんじゃないか?
思い返せばそんなことは多々あった。
いつも彼は近くにいた。
「…そうか、君はベジータさんを見て育ってるから。」
トランクスさんとは違って、プライドが高くて素直に気持ちを見せてくれないんだ。
「相手が自分と言えど、比べられるのは嬉しくないです。」
「トランクス。」
「でも俺は負けないし諦めませんよ。」
そう言って笑う彼を見て、僕は唐突に理解した。

だからあの人は迎えに来ないのだ。
例え環境が違っても、トランクスは僕を好きになると…トランクスさんは分かっていたのかもしれない。
トランクスさんが未来の僕を一番に思うように。
――目の前にいるトランクスも、未来のあなたも同じ人間なのだとやっと気づく。
「トランクス…。これからは君をちゃんと見るよ。」
「悟飯さん?」
「君を、好きになってもいいかい?」
問いかけると、赤い顔を俯かせてしまって。
それでも僅かに聞こえる返事に笑みが浮かんだ。
「…当然ですよ。」


ありがとう。
僕は、この世界で生きていきます。
幼いあなたと共に。
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