その他


トランクス君と遊ぶためにカプセルコーポに行ったら、建物が震えた。
「すごい気だ…。」
これはベジータさんの気。
修行にしてもやりすぎじゃないかと心配になる。
「パパさあ、たまにすごい無茶な修行の仕方するんだよ。」
それに気づいたのかトランクス君も心配そうに言った。
確かに…だってこれはただ自分を痛めつけているだけのようだ。
そしてふと思い出した。
…ああ、もうすぐ父さんの命日だ。

僕はトレーニングルームに向かった。
「…悟飯か。何だ、相手でもしてくれるのか。」
そこにはやっぱり体を痛めつけて傷だらけのベジータさんがいた。
僕を見るその表情がどこか寂しげで。
「ベジータさん、あまり無茶は止めた方が…。」
「ふん。貴様には何の関係もないだろうが。」
関係ない、はずだけど。
これは修行でもトレーニングでもない。
お父さんを失ってベジータさんがどれだけ傷つき苦しんだのか、一目見ただけで分かってしまったから、もう放ってなどおけなかった。
「…分かりました、僕が相手になりますよ。」
言った瞬間、びゅんとベジータさんの拳が風を切る。
僕は何とかそれをかわすことが出来たのだけど。
「そんななまった体では相手にもならん。」
「う…。」
しばらく体を動かしていなかったとはいえ、ここまでとは自分でも驚きだ。
「じ、じゃあまた1か月後に!ちゃんと鍛えて来ますから!」
僕が食い下がるとは思っていなかったのか、ベジータさんは僅かに驚いたように目を見開いた。
でもそれはすぐに、挑むような笑みに変わる。
「いいだろう。」
それは昔から知っているいつものベジータさんだった。

それ以来、無茶なトレーニングはなくなったらしいけれど代わりに毎月、僕はふらふらになるまで稽古の相手をさせられている
















「ベジータさんにとってお父さんは、やっぱり今でも一番なんですか?」
二人でくたくたになるまで組み手をしたあと。
僕だけじゃなくベジータさんも地面に寝転がるくらいには疲れているらしい姿を見ると、自分の力が少しは上がったんだと嬉しくなった。
だから、ずっと考えていたことがするりと口から出てしまった。
「…何を言ってやがる。」
彼は眉間に深いしわを浮かべて、僕をじろりと睨む。
ああやっぱり否定はしてくれないのか。
今までずっと、そしてこれから先も…ベジータさんの瞳にはお父さんしか映らない。
知っていたはずだし、それで良いとも思っていたはずなのになあ。

「僕、少しは強くなったと思いませんか?」
上半身を起こしてベジータさんを見やる。
「ふん。昔に比べたら全然なってないがな。」
彼はそう言って、ぷいと顔を背けてしまった。
これでも時間を作って毎日、鍛えてるんだけど。
まだまだ努力不足か、と苦笑するしかない。
…僕はもっと修行しますよ。
もっともっと強くなる。
だから。
だから。

昔の自分より。
あなたより。
お父さんより。
「僕が誰よりも強くなったらその時は…。」
――どうかお父さんの代わりじゃなくて僕自身を見て下さい。
「何か言ったか、悟飯。」
小さく呟いた声は届かなかったらしい。
でも、それで良い。
まだ弱い自分には、自信を持って言える言葉ではないのだから。











「僕、少しは強くなったと思いませんか?」
目の前の男はへらりと笑う。
情けないその表情を見たくなくて、顔を背けた。

こいつは、悟飯は俺がカカロットの代わりに相手をしていると思っているらしい。
…誰もあいつの代わりになんてなれやしないし、俺は別にそんなもの求めていやしない。
カカロットの面影を追いかけているつもりもないんだ。
なのにこいつは、ずっと俺がカカロットを特別視していると思いこんでいる。

――僕が誰よりも強くなったら…。
悟飯が呟く。
「何か言ったか、悟飯。」
「い、いいえ!何も!」
ああくそったれめ。
情けない顔をして笑うな。
さっさと俺の力に追いついて、昔みたいに圧倒的な力で追い越してみせやがれ。
それで貴様が堂々とその言葉を発したら…俺はすぐにでも貴様の望む返事をくれてやるっていうのに。
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