その他


「…絶対詐欺だ。」
どうにも我慢ならずに俺は呟いた。

「人の顔を睨みつけて何を言うかと思えば。喧嘩でも売ってんのか?」
テーブルの向かい側には、思いのほか豪快に飯を食っている最中の犬阪毛野。
つーか、飯を作らされたついでに俺は向かいに座ってこいつを見ていたわけなのだが。
「別に睨んでねえよ!」
…とっさに反論してから、はたと突っ込むべきはそこじゃないような気がした。
案の定、一瞬不機嫌そうな表情をしていた毛野はくっと喉を鳴らして表情を和らげた。

ああやっぱり、こいつはすごく綺麗だと思う。
男だと明かされてもなおそう感じてしまう。

「何だよ?まだ睨むつもりか?」
「…だから睨んでねえっての。」
毛野はくすくすと笑って冗談混じりに言ってきたから、俺はその表情を眺めることにした。
正直、一目惚れと言っても過言でないほどにその容姿は好みなのだ。
…そして知れば知るだけ惹かれていく、自分がいる。

「…何考えてる?」
突然テーブル越しにぐいっと体を乗り上げ顔をのぞき込まれる。
心臓が飛び跳ねた。
直視出来なくてふいっと顔を背けると、気に障ったのか細長い指が顎を掴み強引に視線を合わされた。
…こういう力技を見せられるとこいつも男なんだよな、と思う。
だけどやっぱり合わさる視線の先にいるのは美しい女にしか見えなくて、顔が熱くなっていくのを自覚した。

「…な、何も。」
苦し紛れにそう呟く。
「へえ、何も考えてないのにお前は顔を赤くするんだなあ?」
「う…。」
しかし苦し紛れの言葉が通用する相手ではない。
じっと見つめてくる瞳に耐えきれず俺は叫んだ。
「お前がそんなに綺麗だから悪いんだよ!」
目が離せない。
いつまででも見ていたいと思うほど綺麗で、綺麗で。
そんな綺麗な顔が目の前に迫っていたらそりゃあ顔も赤くなるさ。

俺の言葉を聞いて、毛野はなぜか満足そうにふっと笑った。

「そんなに俺が好みだとは光栄だ。じゃあ、もうそれで良いだろ。」
「…は?」
「俺では不満か?」


ん?と妖しく微笑み挑戦的に見上げてくる瞳から溢れてくるのは…男の色気、ってやつで。
そうだと分かっていながらも俺は見惚れてしまうのだ。

…ああ、結局。
たとえ毛野が男だろうと女だろうと。
こんな美しい人間を無視することなど俺には出来ないわけで。

「…やっぱり詐欺だよなあ。」

つまるところ、犬阪毛野という存在に惹かれてしまう事には違いないのだから。
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