花柳/B


「野村。」
うわ、来た。
戦いが終わり、休んでいると怖い顔した相馬が目の前に立った。
「よう相馬、お疲れ。」
「今日の戦闘、一人で飛び出しすぎだ。」
へらっと笑ってみせても相馬の表情は変わらなくて、むしろ眉間にしわが一層寄ってしまった。
「…うん、悪かった。」
自分でも言われると思っていたことだから素直に謝ると、少し意外な顔をされた。

俺がどんなに危ない場面で飛び出しても、相馬は必ずつき合ってくれる。
だからこそ安心して無茶してしまうってのもあるんだけどさ。
俺の行動で相馬にも危険が及ぶんだって、分かっていながら飛び出した俺が悪い。

でも今日の場面は。
「別に責めてはいない。」
相馬の表情が和らぐ。
「でも怒ってるだろ。」
「それはお前が、俺に何も言わずに飛び出すからだ。行くなら行くと、一言先に言ってくれないと今日みたいな乱闘では見失う可能性もあったんだからな。」
「あ…うん。ごめん。」
「…あの場面、お前が飛び出して敵陣を崩したから今日の戦いは勝てたのだと思う。」
やっぱり、俺と同じことを考えてくれた。
そして俺のせいで危ない目にあったことじゃなく、俺の身を案じて怒ってくれてる相馬が嬉しかった。
「なあ相馬、覚えてるか?」
嬉しくて嬉しくて、気持ちを抑えきれないまま俺は口を開く。
「俺が新選組に入隊して初めての実践も、今日みたいな乱闘だった。」
不逞浪士が集まっているという一室に突入することになって。
剣の腕に自信はあったけど、実践経験が浅かった俺は前後左右から襲ってくる敵に反応しきれていなかった。
焦って、訳が分からなくなりそうだったそのとき、背中に何かが当たったんだ。
『相馬…?』
それは相馬の背中。
『野村、前だけ見ていろ。後ろは俺が守る。』
その言葉がどれだけ心強かったか。
お前に分かるだろうか。
相馬は俺と違って、どんな戦いだって強かった。
だからって俺を助けながらの戦闘が楽なはずないから。
俺はその日から一層剣の稽古に励んだんだ。
お前の負担にだけはならないように。

「ああ。そうだったな。」
「…相馬。俺は、お前の背中を守るに値するか?」
相馬が俺の背を守ってくれてるってことは、つまり俺も相馬の背を守っているってこと、だから。
稽古を重ねても相馬の強さには追いつけないし、今日みたく危ない場面で飛び出してしまう俺だけど。
背を預けて良いのか?
俺に背を預けて、くれるのか…?

「今更何を言ってる。」
ふ、と相馬が目を細めて微笑む。
「そうでなければ自分から、背を預けたりなどしなかったさ。」
あの日のことを覚えていてくれたことも、こんなに信頼されていたんだってことも。
「お前の無茶はいつも皆を救うんだ。だから前だけ見ていろ、野村。後ろは俺が守るから。」
それは命を預けあう証。
それほど自分が認められているんだってことが、嬉しくて仕方なかった。
「ああ、よろしく頼むぜ親友!」


今までも。
これからだって。
「行くぜ相馬!」
「ああ。野村、あまり一人で前に出るな。」
「平気だって!お前が後ろ守ってくれるだろ。」

だから俺はいつだって、前を向いて戦えるんだ。
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