花柳/B
「野村、早いな。」
まだ日も昇りきっていない朝方、白い息を吐きながら俺は屯所を抜け出して外でぐっと背伸びをした。
「相馬!」
一応静かに出てきたつもりだったけど、もしかして起こしてしまったのだろうか。
聞いてみたら、僅かに笑みを浮かべて相馬は言った。
「いや、お前の気配を追うのは癖みたいなものだから。」
ああ、ほんとにさ。
お前のそういうとこ好きなんだよな。
押しつけるでもなく、いつも俺のことを気にかけてくれてる。
それってすごく幸せなことだ。
「…何をにやにやしてるんだ。」
「別に?あ、それより相馬ほら見ろ!」
俺は正面を指差し、反応をいぶかしんでいた相馬を無理やりそちらに向かせる。
「…。」
息を飲む気配がした。
「きれいだろ?」
「…ああ、とても。」
目の前には、太陽を浴びて輝きはじめる街並み。
真っ白な雪もきらきらと光る。
俺たちは無言のまま、太陽が昇りきるまで街を見つめていた。
「一回、相馬と一緒に見たかったんだよなあこの景色。」
明るくなった街並みを見ながら俺は言った。
「なら、いつでも起こせば良かったのに。」
「いやでも、相馬は忙しそうにしてるから疲れてんのかなって。」
思っていたから、こうして一人で眺めていた。
親友が頼りにされているというのは誇らしいものだし、だからこそ邪魔にならないようにって。
これでも考えていたんだけど。
「抜け出す前にいつも俺が眠っているのか見ていただろう。だからてっきり邪魔されたくない何かがあるのかと。」
「それ逆だし!相馬、もしかして起きてないかなって思ってたんだよ。」
そしたら、さりげない振りで誘ってこの景色を一緒にみようと思ってたのに。
二人して勘違いして。
何やってんだろって思うとおかしくなった。
「でも、一緒に見れて良かった!今日の景色はいつもよりきれいだからさ。」
「…?いつもと何か違うのか?」
全く不思議そうに相馬は問いかけてきた。
きらきら光る街。
この景色が昨日と違うなんてことはない。
景色は、いつもと同じ。
違うところなんて一つしかない。
「相馬が隣にいる!お前と見てるから、いつも以上にきれいに見えるのさ。」
本当のことだから、自信を持って言える。
けど相馬は呆れたようにこちらを見た。
「何を言うかと思えば…」
「信じてないな。本当なんだぜ?」
あ、軽くため息までつかれた。
「相馬!」
「ああ、分かったから。」
ほんとかよ。
と思ったけど、まあ良いや。
呆れたように、それでも相馬が笑うから。
でもお前は知らないんだろ。
俺には相馬と一緒に見るものが全部全部。
この朝日に輝く白銀の雪みたいに、いつだってきらきらして見えてるんだってこと。