花柳/B
ぎゅっ。
ぎゅっ、と規則正しい音が静かな世界に響く。
ちょうど予定がなくふらふらしていた俺に、副長が声をかけてくれた。
雪ばかりの蝦夷の地で、たまの晴れ間。
気分転換に散歩に行くところだというのでお供します!と無理やりついてきたわけだ。
副長は町とは反対側に歩いていて、こっち側はめったに人が通らないせいで雪が積もったまま。
ぎゅっ、と雪を踏みしめる。
せっかく一緒にいられるのだから何か色々話したい、のに慣れない雪道は気が抜けなくてどうしても俯き無言になってしまう。
ふと顔を上げて副長を見ると、全然苦戦してなくて数歩先を慣れたように歩いていた。
それは何度も誰よりも自分の足で、この地を歩いた証拠だと思う。
やっぱり、すごい。
早く追いつこうとまた足元に視線をやった。
少しして、前から聞こえていた雪を踏みしめる音が不意に止んだ。
不思議に思って顔を上げると、副長は立ち止まりこっちを振り返ってくれていた。
…ああ。
会話なんてなくても良いかもしれない。
言葉がなくても、副長の優しさをこんなに感じられる。
きらきら光る雪の上に立つ副長は格好良くて、俺は早く追いつきたくて雪をかき分け走った。
…当然のように、足をとられて転んでしまったけど。
雪にまみれながら見上げた副長は穏やかな笑顔を向けてくれたから。
会話はいらない。
ただこうやって笑ってくれるだけで、十分だと。
そう、思った。