花柳/B


今日も何となく花柳館に足を運ぶと、珍しく野村が試合をしていた。
けれど相手があの女じゃ、ろくに隙もないだろう。
攻めきれない不利な状態だというのに。
俺が道場に入ってきたのに気づいたのか、視線をこちらに向けてぱっと笑った。
その瞬間、当然ながら一本を取られていたが。

「弱すぎ…。」
俺のもとに駆け寄ってきたときでも笑顔のまま。
本当、こいつには呆れる。
「そんなあ。俺、これでも大石さんと戦うために鍛えてるんすよ!」
「それで、俺に勝てると?」
「うーん。まあ、不戦敗?」

言われて、こいつと向き合っている状態を想像した。
俺がいくら本気で死合たいと思っても、殺気をだしてもこの男は今みたいに笑っているような気がして。
「…お前とは戦いたくないなあ。」
「えー、そんなこと言わずに!」

だって、きっと勝負にならない。
不戦敗するのは俺の方だ。
3/12ページ
スキ