花柳 その他


「弥兵衛さんと…野村さん?」
俺たちの姿に気づいた倫ちゃんは、不思議そうに声をあげた。
「やあ、倫ちゃん。」
「こんにちは志月さん。どうかしましたか?」
「あ、いえ…。お二人が一緒にいるのは珍しいなと思って。」
倫ちゃんがそう言うのも頷ける。
俺だって、我ながら不思議な状況だと思う。
弥兵衛さんとは二人きりでろくに話したこともないのに。
今いるのは花柳館の屋根の上で。
俺たちは並んで寝転んでいたところなのだ。

「そういえば、そうですね。」
弥兵衛さんは倫ちゃんの言葉にそう答える。
「それはさ、弥兵衛さんが花柳館で挨拶もそこそこにどこかに向かったから、気になってついて来たらここへたどり着いて、気持ち良さそうだったから一緒に昼寝してたってわけなのさ。」
全くこの状況を理解出来ていないだろう倫ちゃんに、説明をしてやる。
「そうだったんですか。」
先に相づちをうってきたのは弥兵衛さん。
…うーん、この人は。
のんびりしてるっていうか何ていうか。
俺もたいがい自由に生きてるけど、弥兵衛さんも負けてないよなあきっと。
「確かにここは、良い場所ですもんね。」
普通に会話をする倫ちゃんがちょっとすごく見える。

「じゃあ、お邪魔虫はここで失礼しようかな。」
俺は、勢い良く立ち上がる。
弥兵衛さんの後を追って来たわけでもなく、倫ちゃんがここに現れたってことはそういうことなんだろう。
「もう行かれるのですか?」
「うん、ちょっと相馬と出かけるんだ。」
そんな約束してもいないけれど。
そうでも言わないと、引き止めてくれそうな二人だから。
「それじゃ!」

屋根から降りる直前に二人を盗み見る。
弥兵衛さんは俺といるときより心なしか嬉しそうで。
それは倫ちゃんも同じで。
今まで気づかなかったけど。
うん、お似合いだよお二人さん!
6/8ページ
スキ