花柳 その他


鈴花さんはとても良い人だと思う。
明るくて、しっかりとした信念を持ち戦う姿は同じ女である私から見ても魅力的だ。
…だからあの人が、鈴花さんを特別に想っているのは当然だと言えるのかもしれない。


「それでね!倫さん。その時の土方さんが…。」
今は鈴花さんと一緒に新選組屯所の縁側でお茶を飲みながら世間話中。
私の方から、今日はいただいたお菓子をおすそ分けに来ただけで他意はなかった、とはいえ。
私がどういう仕事をしているのか知らないわけでもないのに、鈴花さんは快く屯所内に通してくれた。
そして今にこにこと色んな話を聞かせてくれている。
…私の存在をあまり良く思っていない土方さんも、鈴花さんの友人として訪れた私には目をつぶってくれているらしい。
そう、させているのはやはり鈴花さんの魅力ということだろうか。
鈴花さんって、すごいなあ。

「やあ。何だか賑やかだと思ったら、君が来ていたのか。」
「あ…尾形さん、こんにちは」
「ああ、こんにちは。」
廊下の向こう側から現れた尾形さんは、私と挨拶を交わすと鈴花さんに向き直る。
必要最低限の言葉だけ。
それ以上踏み込むことを拒むような雰囲気が、瞬間和らぐ。
…ああ、私はばかだ。
何度それを見れば気が済むのだろう。
何度も、胸を痛めて。
それでもこの人に会いたいと思ってしまうのだから。

「桜庭さん。土方さんの悪口を言うならもう少し小声にしないと、あっちで眉間にしわを寄せていたよ。」
「ええ?悪口だなんて言ってませんよ!私はただこの間の土方さんの活躍をですね…!」
「分かってる、冗談だよ。」
ふっと笑う。
その笑顔は私に向けられるのとはきっと違う笑み。
「尾形さんひどいですよお。」
鈴花さんのころころと変わる表情を見るのがとても楽しくて、嬉しいみたいに。
「悪かったよ。でも桜庭さんがあんまり褒めるから、土方さんが照れているっていうのは本当さ。」
「えっ…!?」

それを聞いて鈴花さんは顔を紅く染めてしまった。
だから、尾形さんが少し悲しそうな顔をしたことに気づかない。
傍で見ている私だけが。
僅かなその変化に気づくのだ。
そしてまた胸がしめつけられる。

裏表のない鈴花さんは、嘘をつくことがないから言葉にしなくても分かってしまうことがある。
誰を慕っているのか、なんてたまにしか会わない私にだって理解出来てしまう。
「…じゃあ俺はこれで。ごゆっくり。」
尾形さんだって、とっくに分かってるはずなのに。
決して届かない想いを抱き続けている。

…それは私も同じ、だけれど。
どれだけ思っても決して届くことはない。
決して交わることは、ない。
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