花柳 相+野
「相馬、起きろ!」
同室の相手から、声をかけられたうえ体を揺さぶられる。
まだ重い瞼を開いてみると思った通りあたりはまだ薄暗い。
「野村…こんな時間から何の用だ…。」
いつもは俺が起こすまで惰眠を貪って、寝起きだって悪いくせに。
今日はすでに着替えさえ終わっている。
「あ、また寝ようとするなって!」
いつもお前がしていることだ、と深刻な用事があるわけでもなさそうなので再び眠ろうとすると。
ばさっと布団をはぎ取られてしまった。
体が冷たい空気にさらされ、一気に眠気がとんでいく。
「相馬って意外と寝起き悪いんだなー。」
「…。」
「怒るなって!良いもの見せてやるからさ。ほら!」
そう言って野村は外を指差す。
仕方なしに起き上がって外を見やれば。
そこは一面、銀世界。
「雪…か。」
夜中のうちに降り積もったのだろう。
どうりで寒いはずだ。
「な!」
隣で一緒に外を見ていた野村がこちらを向いて嬉しそうに笑う。
一体何に対しての同意を求めているのか良く分からないが。
野村が本当に無邪気な笑顔でいるから、もう怒る気は失せてしまった。
「な、外行こうぜ相馬!」
「…は?」
「まだ誰も足跡つけてないんだ。一緒に一番乗りで足跡つけようぜ。」
…もしかして、それがしたくてこんな早くに俺を起こしたのか?
まっさらな雪に、一番最初に足跡を残したからと言って何があるわけでもないだろうに。
「ほら、早く準備しろ相馬!」
そう思いながらも、野村があんまり嬉しそうにしてるから。
早く早く、と急かす声に逆らえなかったりするのだ。