幕恋 芹鈴

「わあっ…綺麗ですね芹沢さん!」
目の前には桜並木。
私は芹沢さんの後ろを歩きながら、浮かれて言った。

だってまさか芹沢さんとお花見が出来るなんて思っていなかったから嬉しくて、その気持ちを隠す気もない。
返事をしてくれるなんて期待はしていなかったから、無言でも構わない。
一緒にいられるこの空間がただただ幸せなのだから。

突然芹沢さんはぴたりと足を止めた。
何か気になるものでもあるのかと視線を追えば、そこには満開の桜しかなくて。
どうしたのかと再び芹沢さんに視線を戻すと、目を細めてその景色を眺めていた。
やがて酒瓶をぐいとあおり。

「桜の庭…。」
「え?」
「お前の名の通りだな、ここは。」

名前を、覚えてくれていたんだなんて変な感激をしながら言葉の続きを待つ。
芹沢さんは真っ直ぐ、桜が咲き誇るのを見ていて。
しばらく無言が続く。
…けれどもそれは決して嫌な間ではない。

「いずれ、浪士組もこうなるだろう。」
芹沢さんはわずかに笑った。
「この京は俺達の庭となるのだ。」ざあっと風が吹いて桃色の花びらが空を舞う。
それはとても、儚く美しい。
芹沢さんの言葉と同じように。

…でもこの人は本気で言っているのだろう。
儚く美しいだけでは終わらない、そう思わされるほどきっぱりと言い切るから。
遠い未来を確信したように笑うから。
信じたい。
ついて行きたい、この人に。

「…どこまでもお供します!」
「…ふん。」

花のように散らぬよう、あなたの言葉を叶える力になりたい。
そしてその時も、こうしてあなたの傍にいたい。

いつまでも。
どこまでも。
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