花柳 高倫
「そういえば高杉さんは梅さんと古くからの友人なのですね。」
香久夜楼の一室、高杉さんにお酒を注ぎながら私は言った。
「梅さん?…ああ坂本か。どうした、あいつが俺の悪口でも言ってたかい?」
「いえまさか。ただ、梅さんの短銃は高杉さんがお土産に送ったものだと聞いたので。」
空になった杯に再びお酒を注いで高杉さんを見ると、にやり、口端を上げた。
「なるほどな。お嬢さんはそれで機嫌が悪いのか」
「わ、悪くなどありません。」
ただ、高杉さんの傍にいられない時でも高杉さんを感じられるようでうらやましいなって。
それだけのつもりだったのに。
そう言われてしまってはまるで、高杉さんからものをもらった梅さんに嫉妬しているみたいで。
合わされた視線をふい、と逸らした。
「ああ悪かった。だからちゃんとこっち見てくれよ、お嬢さん。」
子供に言い聞かせるように優しく穏やかな声に逆らえず、高杉さんに視線を戻す。
声と同じくらい優しい顔で笑っている。
「今は短銃ほど凝ったものは探してこれないが、次会うときには土産を持ってくるよ。」
くしゃり、暖かくて大きな手が私の頭を撫でる。
「お嬢さんは何が好みかな。着物か?異国の菓子でも良いぞ。」
ああ本当にこの人は、なんて優しい。
「…わがままを、すみません。」
「そのくらいわがままのうちにも入らんさ。可愛いものだ。」
…本当は私も何か、高杉さんから形のあるものを与えて欲しかった。
離れている間も繋がっていられるような気持ちになりたかった。
けれど、それは違うのだと。
「遠慮はなしだ。ほしいものがあるなら言ってくれないか?」
「…着物も、お菓子もいりません。」
私は高杉さんの手を掴んだ。
「高杉さんが、ほしいです。」
代わりなどいらないし、必要もなかったんだ。
こんなにも私を想っていてくれる。
時間を作って、危険をおかしてまで会いに来てくれる。
それは十分すぎるほど幸せなこと。
高杉さんは一瞬驚いたように目を瞬かせたけれどすぐにふっと微笑んで。
「ではこの体と心はお嬢さんに差し上げよう。」
そう言って私の手をぎゅっと握り返してくれた。
それはどんな形あるものより、私にとっては嬉しい贈り物。
「だがやはり、次会うときに土産を持ってくるとしよう。」
「え?」
「坂本にはやったのに、お嬢さんにはあげないなんておかしな話だからなあ。」
これ以上望なんて贅沢な気さえするけれど、高杉さんも何だか楽しそうだったので。
「ふふ。では次会うときを楽しみにしていますね」
高杉さんと交わす約束は宝物のように私の胸に溢れているのだから。