花柳 その他


響く銃声、かき消される声。
俺の言葉は君に届いただろうか――。



「相馬、散歩に行こうぜ!」
今日は雲一つない快晴。
せっかくだからと道場で見つけた親友に声を掛けてみる。
「…野村。」
けれども呆れ気味の表情を浮かべてこちらを見る相馬から続けて発せられる言葉は、何となく予想できて。
先手を取ってくるりと道場の中央を振り返る。
「ねえ、倫ちゃんも一緒に行こうよ!」

いつだったかな。
まるで見守るように、相馬が倫ちゃんの傍にいるんだって気付いたのは。
「ええ、喜んで。」
そして可憐な彼女の笑顔が、俺を通して誰に向かってるのかって事に気付いてしまったのは。

…その時にはもう、無かったことにするには出来ないくらい大きくなった気持ちがあった。
だけど、親友がどれだけの男なのかなんて俺が一番知っている。
相馬にはかないっこないって分かってるから、ずっとずっとこの気持ちは隠し続けようと決めた。
俺は相馬も倫ちゃんも大好きだから、この関係を壊したくもなかった。
…でも諦めきれなくて、たまにこうして二人の間に入ってみたりするんだけど。
ただ傍にいたいんだ。
俺にその笑顔が向けられることがなくたって。
いつだって大好きな君の笑顔を、幸せを君の傍で願いたいんだ。

そして今日もまた、前を歩く二人を後ろから見守る。
少し胸が痛むけど倫ちゃんが笑っているから、それだけで良いや。
「野村さん?」
せっかく気を利かせてるのに気付かないのかな。
相馬と倫ちゃんは揃って不思議そうに振り返る。
「散歩に誘ったのはお前だろう、野村。なぜ後ろを歩く。」
「そうですよ。ほら、行きましょう。」
倫ちゃんが優しく笑って手を差し出してくれる。
そんな二人に俺はいつも救われるんだ。

ああ。
今だけはその手を取っても良いのかな。
いつか来る、別れの日までは。



…出来るならあの時のまま、ずっと一緒にいたかった。
けど二人の間に入って邪魔をするのももう終わりかな。
…目の前にはたくさんの敵、極めつけにはガトリング砲。

「野村さん…!」
回天から倫ちゃんが必死に手を伸ばして俺の名を呼んでくれている。
ずっと甘えていたけど、これからはその手を取るのは俺じゃない。
だけど、今でもまだ手を差し伸べてくれる優しさが本当に嬉しくて俺は笑顔を浮かべた。
今この瞬間にも俺は救われた気持ちだよ。
…だから、そんな顔しないで。
いつでも笑っていてよ。
俺はね、相馬の隣で楽しそうに笑う君の姿がとても。
…とても。

「野村!」
全く、相馬までなんて顔してんだ。
邪魔者は退散する、それだけのことなのに、そんな風にされたらさ。
…この関係を壊したくなかった、けれど否応なく崩れてしまうのなら。
最後まで二人の間にいても良いだろうか。

そんな気に、なるだろ。


「…倫ちゃん!」



響く銃声、かき消される俺の声。
ねえ、君に届いただろうか。

――俺はこんなにも君が好きなんだって。
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