花柳 その他


「今年はこまめに掃除していたからあまり汚れがないわね。」

大晦日、道場の掃除を終わらせて私は言った。
雑巾を片付けようとしたらそれより早く咲彦くんが私の手を引いて、笑った。
「なあ、このままここで除夜の鐘を聞こうよ。」
「ええ?」

今現在、もう夜中。
日付が変わりそうなくらいの時間から道場の大掃除をしようだなんて、おかしいとは思っていたけれど。
「じっと待つのは寒いよ咲彦くん。」
私は僅かに体を震わせて答えた。
「へへっ。」
咲彦くんは得意げに笑ってどこからか毛布を持ってきてふわりと広げる。
「ほら、早く入りなよ。」
「…もう。」

わざわざ防寒に用意していたって事は最初からこうするつもりだったと言っているようなもので。
…何も、こんな回りくどい方法をとらなくても良いのに。
普通に誘ってくれても私は喜んで一緒にいただろうと思う。
文句の一つでも言いたくなったけれど、咲彦くんが無邪気に嬉しそうに笑って私を見るから。
怒る気も失せてしまって大人しく隣に座った。

ふわりと毛布が掛けられて体が暖まっていく。
ぴたりと体を寄せた。
「あのさあ、倫…来年もよろしくな?」
咲彦くんは照れくさそうに笑って言った。

その時、鐘の音が響き渡る。
「…うん、よろしくね咲彦くん。」

今年も。
今年だけでなく、来年もその先もずっと。
こうして一緒に新しい年を迎えようね。
隣にいてね。


鐘の音を聞きながら。
一年の終わりと、新しい年の始まりに大好きな人といられるのはすごく嬉しいことだと思った。

「あけましておめでとう」
私達は笑って顔を見合わせた。
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