幕恋 芹鈴

島田さんがたくさんあるからとお団子をくれた。
一人で食べるにはちょっと多いから、誰かを誘おうと。
どうせなら今、桜が満開だから花見をしながら食べられたか良いかも、と思い立った。

「はあ…。」
そう思い立ったのは良いのだけど今日はとても良いお天気で。
非番の人は皆出掛ける用事があるみたいだから断られてしまった。
私が勝手に一人で盛り上がってしまっただけ、なんだけど残念だなあ。

なんて思いながら、頓所の廊下をとぼとぼ歩いていると。

「何、ため息など吐いてやがる。」
「芹沢さんっ…。」
振り返ると酒瓶を携えた芹沢さんがいた。

邪魔だ、というような雰囲気に慌てて廊下の端に寄りながら。
「あ、あのお団子を貰ったので誰かと桜を見ながら食べようかなと思ったんです、けど…。」自分から聞いてきたわりに私の説明に興味などなさそうに、手に持つお団子と私の顔を一瞥して通り過ぎていく。

けれども数歩先で足を止め、一度お酒を流し込んでから。
「…ちょうど花を肴に飲もうとしていた所だ。ついでに団子も食ってやる。」
振り向きもせずにそう言う。

でも知っているから。
そんな言い方すらあなたの優しさなのだって。

「はい!」
だから惹かれていく。

だから私は、決して振り返らないと知りながら芹沢さんの後ろをついて行くのだ。
2/11ページ
スキ