花柳 その他


「こんにちは、志月さん」
いつものように穏やかな声と共に花柳館の扉が開かれる。
いつもと同じ、穏やかな笑顔は私をこんなにも喜ばせてくれる。
「こんにちは、弥兵衛さん…。」
けれど今日は、いつもと違うことが一つ。


「…あの、どうしたのですか?」
「何がでしょう。」
私の問いかけに弥兵衛さんは不思議そうに微笑んだ。
「ええと、その大きな包みは何ですか?」
改めて問い直す。
弥兵衛さんは両手に余るほどの綺麗な包みを持っていた。

「これはあなたに、贈り物です。」
「え?」
どうぞ、と微笑まれては受け取るしかない。
包みはずしりと重たかった。
突然の贈り物に驚いてしまったけれど、それよりも嬉しくなってしまう。
弥兵衛さんが、私に何かを贈ってくれるという事実が胸を暖かくしてくれる。
「ありがとうございます、弥兵衛さん。」
そっと包みを解いて中を覗いてみると。
「金平糖…ですか?」

包みいっぱいに小さくて色とりどりの金平糖が入っていた。
「昨日、桜庭さんとお茶をしました。」
「そうなのですか。」
弥兵衛さんを見上げる。
「その時に金平糖を食べて、女の人はみんな金平糖が好きだと聞いたんです。」
なるほど、甘いものが好きな鈴花さんらしい言い分。
そして弥兵衛さんらしい素直さにくすりと笑ってしまう。

「だから私に買ってきて下さったのですか?」
「志月さんは、金平糖嫌いですか?」
色とりどり、きらきらした金平糖はまるで弥兵衛さんの心そのもののようで。
「いいえ、とても好きですよ。」

そう答えたら、不意に弥兵衛さんはいつになく優しい笑みを浮かべた。
「良かったです。俺も、小さくて可愛くて…金平糖はあなたみたいで好きです。」
だから店にあった金平糖を全部買い占めてしまいました、と弥兵衛さんは言った。

…ああなんて不意打ち。
本当に嬉しそうに笑いながらそんなに真っ直ぐに言われては、恥ずかしくて顔が上げられない。
「志月さん?」
俯いてしまった私の名を不思議そうに呼ぶ弥兵衛さんは、きっと自分がどれほどの告白をしたのかなんて気づいていないのだろう。
本当に、どこまでもきらきらと真っ直ぐな人。


「弥兵衛さん、これから一緒にお茶を飲みませんか?」
赤いままの顔を上げて視線を合わせる。
「金平糖、一緒に食べましょう。」
「はい。」
弥兵衛さんは柔らかく笑った。
2/8ページ
スキ