花柳 その他


あなたの笑顔がとても好きです。
暖かくて優しいその笑顔を見ると私はとても幸せな気分になれるのです。



いつものように花柳館へとやってきた人の姿を認めて、私は稽古の手を止め駆け寄る。
「こんにちは、石川さん」
「ああ、こんにちは倫さん。」
「才谷さんなら、今日はまだ来ていませんよ。」

この人がここへ来てくれる理由は決まっている。
いつだって才谷さんと、この国を一番に考えている石川さんが誇りに思えるけれど、反面少し残念でもある。
何の用事がなくても、才谷さんを探すついでではなく花柳館に来てほしい…なんて。
…日夜自らの理想を実現すべく走り回っている石川さんにそんなわがままは言えない、のだけれど。
忙しい時間の合間にこうして話が出来るだけでも感謝しなければ。

ふ、と彼の口から笑みがこぼれた。
「石川さん?」
「いや、俺はそんなに才谷さんばかりだったかと思ってね。」
細められた穏やかな瞳が私を映す。
それだけでどきどきと心臓が高鳴り、喜びが体を駆け巡る。
「今日は才谷さんでなく君に会いに来たんだ。これを渡そうと思って。」
差し出された紙を反射的に受け取る。
それは一枚の写真。
笑顔の石川さんが写った写真だった。

「これを…私に?」
「…いつか言ってくれただろう。俺の笑った顔が好きだと。」
…覚えていて、くれたんだ。
その心遣いが何よりも嬉しかった。
写真の中の石川さんは、私の大好きな笑顔で私を見ている。
嬉しくて、そっと写真を抱きしめた。

「…この先は、今まで以上に会えなくなるかもしれない。」
ためらいがちに降ってきた、真剣な声に顔を上げる。
石川さんは真っ直ぐに未来を見据えているようだった。
「君の前でいつも笑っては、いられないかもしれない。…でも。」
石川さんが成そうとしていることがどれほど大変なのか、私には想像がつかない。
けれど、あなたの溢れるほどの優しさはしっかりと伝わってきたから。

「この写真を見れば、私はいつも笑っていられます。」
そしてあなたが会いに来てくれた時笑顔でいたなら、きっと私の大好きな笑顔を返してくれるでしょう?

「ありがとうございます」
私は微笑む。
「それなら良かった。」
――ほら、きっとこんな風に。
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