花柳 野倫


「あ、また雪…。」
五稜郭の奉行所から外を見ると、どんよりとした空からひらひらと白い結晶が舞い始めていた。

私達がやってきた時にはもうこの地は、真っ白な雪で覆われていた。
そしてなお、降り続く。
しんしんと…まるで全ての音を吸い込んでしまっているかのように、静かで。
何だか世界に自分一人のような錯覚さえ覚えて体が震える。

「倫ちゃん、寒いの?」
「え?」
ふいに声を掛けられて驚いてしまった。
「野村さん。」
外から視線を移す。
笑顔の野村さんを見ただけで、さっき感じていた恐ろしさが嘘のように消えた。
「大丈夫?」
「ええ、外を見ていただけです。」

自然と笑顔を浮かべると野村さんも安心したように笑って。
それから外へ視線を向けた。
「また、雪降ってきたのかあ。本当蝦夷ってよく降るよね。」
けれどそう言う野村さんの表情はどこか楽しそうで。
「…雪、お好きなのですか?」
思わず尋ねていた。
野村さんは一瞬、きょとんと瞬きを繰り返す。

「好きだよ?だって綺麗じゃん?」
返事は至って単純だ。
…けれど、全てを真っ白く覆うそれを恐ろしくさえ感じていた私には衝撃的で。
「それにさ、積もった雪の中を歩いた後に出来る一本の道って何か感動しない?自分達の歩いてきた道が、目に見えるんだよ。」
…ああ、野村さんってすごいな。
そんな風に考えた事なんてなかった。
私達はずっと歩き続けてきた。
これからも、歩き続けていくのだ。
雪を踏み固めるように、一歩ずつ。

「倫ちゃんは雪、嫌いなの?」
私は笑顔で答えた。
「私も好きですよ。」

いつかこの白い大地が、私達の望む色に染まればいい。
素直にそう思えた。

雪はまだ静かに降り積もっているけれど。
今はあなたと二人、だから。
恐れることなど何もないのだ。
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