花柳 野倫
庵さんから頼まれたお使いの帰り道、私は大きな風呂敷を抱えて歩いていた。
「あれ、倫ちゃん?」
声をかけられ振り返ると、野村さんが立っていた。
「野村さん。こんにちは。」
「うん、こんにちは。倫ちゃん、花柳館に戻るところなら一緒に行かない?」
「ええ、喜んで。」
「荷物重そうだね。貸して。俺が持つよ。」
「え、大丈夫ですよ。」
確かに重たいけれど、鍛えているおかげかそんなに苦ではない。
「良いから良いから!」
笑顔の野村さんはひょいと私の腕から風呂敷を取り上げ。
そして、顔をひきつらせた。
「重っ…。」
「あの、だから大丈夫です。」
「いや、俺も男だから一度言ったことを撤回なんかしない!それにこんな重いって分かったならなおさら、倫ちゃんに持たせるわけにはいかないだろ。」
そんな風に言ってもらったのは初めてかもしれない。
重たい荷物と分かっていながらお使いに出されたり、花柳館で私は女の子扱いをあまりされた記憶がなかったから、驚いてしまった。
でも、とても嬉しい。
「ありがとうございます。」
「良いってこのくらい!」
無理させているのは分かっているけれど。
野村さんが笑顔でいてくれるから、その優しさに甘えてしまうことにした。